第4話

「あの二人には悪いけど、この恋は諦めてもらうしかないわね」

「なんで? 良いじゃないか。本人たちにその気があるなら、僕たちに止めさせる権利はないだろ」

 凜々花りりかの言葉に対し、サトルは軽やかな口調で答えた。

「良いわけないでしょ! あのの父親と優樹の母親はあんな修羅場を繰り広げたのよ? 万が一、あの二人が結婚にまで発展したらどうするのよ!?」

「仲良く、親族関係を築けばいいじゃないか」

 ──相っ変わらず、話にならないわね。

 凜々花りりかは眉をしかめ、大きなため息をく。

 もちろん、サトルに聞こえるように、だ。



          ◇



 小鳥遊たかなししずくの父・サトルと、凜々花りりかの間に熱愛報道が出たのは、今から二十年近く前のことだ。

 互いにブレイク必死の若手俳優として数々のドラマに出演し、知名度が高まっている頃。

 サトルと凜々花りりかは同じ歳で、まだ十代半ばだった。

 事務所に別れるように説得された二人には、ほどなくして破局報道が流れた。


 ──その後、三・四年の月日が経ち、サトルは夢莉ゆうりというシンガーソングライターと結婚し、その少し後、凜々花りりかも一般人男性と結婚した。

 そして、サトルと夢莉ゆうりは未だ、中睦まじい夫婦生活が続いているが、凜々花りりかは結婚生活三年程で離婚するに至り、シングルマザーとして優樹を育てている。



           ◇



「彼女はダメよ、諦めなさい」

 凜々花りりかは淡々とした口調で、優樹の目を見据えて言った。

 ──悪役なら、お手のものだ。長年、女優人生を送ってきただけの自負はある。

 無論、心苦しさを感じてはいる。

 しかし、小鳥遊たかなししずくだけは、絶対に駄目だ。

 

「母さん、サトルさん達は多分、もう気にしてないと思うよ」

「……え? まさか……優樹……熱愛報道のこと、知って……?」

「……うん」

 凜々花りりかは軽い目眩めまいがした。

 まさか、優樹が二十年前の、ほんの一時期週刊誌やワイドショーを賑わせただけの、サトルとの熱愛報道を知っているとは。

 

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