第3話

「クラスに友達ができたよ。クラスの雰囲気も良いし、問題ないよ」 

 クラスの様子を聞いた凜々花りりかに対し、優樹はどことなく、楽しそうな様子で答えた。

 そして、続けざまに口を開く。

「……僕、小鳥遊たかなしさんのことが好きなんだ……」

「ゴフォッ!」

 危うく味噌汁を吹き出しそうになるのを、唇を固く結ぶことでなんとか塞き止めた。

 慌てて飲み込んだが、器官に入ったらしく、しばらく咳き込む。

 ……世の中の思春期の息子というのは、こんなに素直な生き物なのだろうか? 

 凜々花りりかは思わず腕を組んで考えこむ。


「告白しようと思ってるんだ」

「え!?」

「……放課後、いつも二人で一緒に帰ってて……一緒にいると、すごく楽しいんだ」

「素敵じゃない! きっとうまくいくわよ! 応援するわ!」

「ありがとう」

 顔を赤らめ、嬉しそうに話す優樹の顔を見て、凜々花りりかは彼の高校生活が楽しく、かけがえのないものになるように願った。

 


          ◇



 自室で、いくつかの映画やドラマの企画書を精査している時だった。

 ──着信音が鳴り、凜々花りりかはスマートフォンを手に取る。

 画面に表示された名前を確認し、凜々花りりかは眉間にしわを寄せた。

 無視しようか、と一瞬思ったものの、よほどのことがないと掛けてくる相手ではない、と思い直す。

「なにか用?」

 凜々花りりかの刺々しい物言いに、電話の相手は苦笑し、「相変わらずだな」と冗談にも、嫌味にも取れるトーンで呟いた。

 電話口の相手は凜々花りりかと同じ年で数々のドラマ、映画で主演歴がある、俳優のサトルだ。


 サトルは唐突にこう切り出した。

「ウチの娘と君の息子、クラスメートみたいだな」

「……は? 娘って誰のこと──」

 一瞬、怪訝けげんに思ったのも束の間のこと。凜々花りりかの脳裏にははある人物が浮かんだ。


 ──小鳥遊たかなししずくだ。

 初めて見た時、“あの人”に似ていると思ったのも当然だ。実の子どもだったのだ。


 優樹が恋した相手、小鳥遊たかなししずくは昔、凜々花りりかが昔、愛した人の娘だ。 


 ──なんで、よりによって……。

 凜々花りりかは、目の前に白いもやがかかるかのように、視界がボヤけていくのを感じた。


         


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る