第2話

「あ、新入生はあっちに集合みたい!」

 しずくは、校舎前で集合を呼び掛ける教員の姿に気づく。

「優樹くん、行こう!」

 凜々花りりかに向かってペコリ、とお辞儀をすると優樹としずくは一緒に去って行った。



          ◇



「あののこと、好きでしょう?」

 入学式が終わった帰りの車の中で、凜々花りりかは優樹に聞いた。

「……ど、どうしてそう思うの?」

「そんなに顔真っ赤にしてたら、誰でも気づくわよ」

 助手席に座る優樹の顔をチラリと見ながら言う凜々花りりかの言葉に、優樹は誤魔化すようにガシガシと頭を掻いたものの、すぐに観念したように「うん」と素直に、首をたてに振った。


 車を走らせながら、凜々花りりかしずくの顔を思い浮かべた。

 あの様子だと、しずくもきっと同じだ。

 淡い桃色に色づいた頬や耳、優樹のことを見つめる瞳がなによりもの証拠だ。


 ──一瞬、しずくを一目見た時、ふとある人物が頭をよぎったことを思い出した。

 ──“あの人”にどことなく、似ている。

 そう思ったが、すぐさま、そんな偶然あるわけないと思考をそらす。

「お似合いね」

 凜々花りりかが言うと、優樹は「なに言ってるの!」と珍しく声を張り上げた。



          ◇



 ──高校入学から二週間ほどが経過した。

「学校はどう? 友達はできた?」

 目の前に座る息子、優樹に対し、何食わぬ顔で聞いた。

 内心、緊張している。

 しずくとは、なにか進展があったのだろうか? まるで、自分のことのように心臓がざわめいている。


 優樹は魅力的な男だ、と凜々花りりかは評している。

 優樹は幼い頃から穏やかで優しい性格だ。

 それに反して、端正でクールにも思える顔立ち。

 元々、凜々花に似た、ぱっちりとした目。だが、少し切れ長な目元や、涼やかな薄い唇、細身で両親ゆずりの長身は、口数の少ない性格も相まってか、どこかミステリアスな雰囲気を纏っている。

 本人が望めば、すぐにでも華々しく芸能界デビューできるだろう、と凜々花りりかは思う。

 それは決して親の欲目ではなく、長年、芸能界に身を置き、多種多様な華のある見目麗しい芸能人を見てきたからこそ分かるのだ。

 本人の口からは聞いていないが、周りの生徒からもモテてきたことを凜々花りりかは知っている。

 例えば凜々花りりかが優樹の学校行事に参加する時、二人で廊下を歩くと生徒達の視線はまず数々のドラマや映画で主演を務める、凜々花りりかに向けられる。しかしその後、うっとりとした視線は優樹へと移るのだ。

 熱を帯びた、視線は恋愛感情を伴ったものであることは、きっと凜々花りりかでなくとも分かるものだろう。

 

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