第18話 小学校最後の区大会


4月が過ぎ、5月に入り、ついに8月の最後の大会へ向けた本格的な準備が始まった。悠斗の所属するクラブチームは、去年の悔しさを胸に全員が気合いを入れていた。昨年の区大会決勝で敗北した相手は強敵だったが、今年こそリベンジを果たすという思いがチーム全体に広がっていた。悠斗自身も、この最後の大会を優勝で飾るために、これまで以上に努力を重ねていた。


週末の練習は特に厳しかった。監督は今年のチームが去年よりもさらに高いレベルに達するため、練習メニューをより一層ハードにしていた。チームメイトたちは時折息を切らしながらも、皆が同じ目標に向かって懸命に努力していた。悠斗はその中でも特に目立つ存在だった。彼のプレーは日々進化し、ボールコントロールやパスの精度が格段に向上していた。


しかし、ただ技術が上がるだけでは勝てないことを悠斗は理解していた。去年の区大会決勝では、相手チームの強力な攻撃に翻弄され、自分たちのペースで試合を進めることができなかった。それを反省し、今年は試合の流れをしっかりと掴むために、チームとしての戦術面にも重点を置いていた。特に、試合中のポジショニングや攻守の切り替えのスピードを向上させるための練習が続けられた。


6月に入ると、区大会へ向けたトーナメントのスケジュールが発表され、チームの士気は一層高まった。去年敗北した相手チームとの再戦の可能性が、決勝で待ち受けていることが分かると、悠斗を含む全員がその日を待ちわびながらも、決して油断することなく一戦一戦に集中して取り組むことを誓った。試合前の準備として、チームは数多くの練習試合を行い、戦術やフォーメーションの確認に余念がなかった。悠斗は、相手の動きを読み取る能力が格段に上がり、守備の読みや判断力が飛躍的に向上していた。


7月下旬には、夏休みに入ったこともあり、チーム全体での合宿が行われた。合宿では特にメンタル面の強化が図られ、どんな逆境でも冷静にプレーできるようにと、精神的なトレーニングも行われた。厳しい暑さの中での合宿だったが、悠斗はその苦しさを乗り越えることで、自分の成長を強く感じることができた。体力的にも精神的にも、彼は去年の自分を遥かに超えていることを実感していた。


そして迎えた8月、ついに区大会が開幕した。チームメイトたちは皆、緊張しつつも勝利への強い意志を持っていた。悠斗はこの日、特に冷静だった。彼は自分の中で、昨年の悔しさを思い出しながらも、その経験を活かし、勝利へのプランをしっかりと描いていた。


初戦は無事に勝利を収め、チームは順調に勝ち進んでいった。試合ごとに自信をつけていくチームメイトたち。悠斗もまた、試合を重ねるごとにリーダーシップを発揮し、チームを引っ張っていった。彼の的確な指示と冷静なプレーは、チームメイトたちの信頼を集め、試合中でも安心してプレーできる環境を作り上げていた。


ついに決勝戦の日が訪れた。相手は、去年の区大会決勝で敗れた因縁の相手だった。試合前のミーティングで監督は、「今年は違う。今年は自分たちのペースで試合を進める」と、全員に力強い言葉を投げかけた。悠斗もその言葉に強く同意していた。昨年は相手の強力な攻撃に翻弄されたが、今年は自分たちが攻める側だという自信があった。


試合開始のホイッスルが鳴り響くと、悠斗は冷静に相手の動きを観察しつつ、チーム全体のバランスを取りながら攻守に動いた。試合序盤は一進一退の攻防が続き、どちらのチームも得点には至らなかった。しかし、中盤に差し掛かった頃、ついにチャンスが訪れた。相手チームのミスを逃さず、悠斗が素早くボールを奪取し、前線へとボールを送り込んだ。そのまま味方のシュートが決まり、チームは先制点を奪った。


先制点を取ったことで、チームの士気はさらに高まり、試合の流れを自分たちのものにすることができた。相手チームも激しく反撃を試みたが、悠斗を中心とした守備陣がしっかりと対応し、相手に得点を許さなかった。


後半に入っても、悠斗の冷静な判断とチーム全体の連携が光り、相手に隙を与えなかった。試合終了のホイッスルが鳴ると、チームは見事に勝利を収め、去年の決勝での悔しさを晴らすことができた。悠斗はチームメイトとともに喜びを分かち合いながらも、まだこの大会は終わりではないという自覚を持っていた。


「次は都大会だ。この勢いで勝ち進んで、絶対に優勝しよう!」


悠斗のその言葉に、チーム全員が力強く頷いた。彼らの目標は、さらに高い舞台での勝利だった。

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