第17話 小学校最後の大会前

悠斗が小学6年生に進級した4月のこと。春の陽気とともに、新学期が始まる中、悠斗は特別な決意を抱いていた。彼にとって、今度の8月に行われる区大会は小学生最後の大会であり、サッカー人生のひとつの節目でもあった。昨年の区大会決勝での悔しさを胸に、今年こそはそのリベンジを果たし、優勝するという強い意志を持っていた。


練習は次第に本格化していく。チームメイトたちも6年生となり、皆それぞれが成長を感じていた。特に、キャプテンとしての自覚が芽生えた悠斗は、チーム全体を牽引する立場にあることを強く感じていた。彼は個々のプレーだけでなく、チーム戦術の理解や仲間との連携を重視し始めた。試合中のポジショニングや、攻守の切り替えのタイミングなど、細かい戦術面にも意識を向け、チームのレベルアップを図ろうとしていた。


学校が終わると、すぐにクラブの練習に向かう毎日が続いた。練習はこれまで以上に厳しいものであり、体力的にも精神的にも追い込まれることが多かった。しかし、悠斗は「これが自分の限界を超えるための試練だ」と思い、どんな苦しさにも耐えていった。特に体幹トレーニングやスプリント系の練習は、昨年の自分よりも一段階上のパフォーマンスを引き出すための重要な要素だった。


また、彼は個人技を磨くことにも余念がなかった。家に帰ってからも自主練習を行い、特にドリブルの精度やボールコントロールの向上を目指していた。練習場での時間だけではなく、自宅の庭や近くの公園でボールを蹴る姿は、誰から見てもひと際目立っていた。家族もそんな彼の努力を応援しており、食事や生活面でのサポートを惜しみなく提供していた。


一方で、チーム全体としての課題も浮き彫りになっていた。特に守備面での連携が不安定で、相手の攻撃を防ぎ切れない場面が多々見受けられた。悠斗はこの点を重点的に改善するため、守備の意識を高めるようチームメイトに働きかけた。自分自身もディフェンスの練習を繰り返し行い、相手の動きを読む力を鍛えていった。彼のリーダーシップの下、チーム全体が次第にまとまりを見せ始め、守備の精度が上がっていくのを感じた。


そんな中で迎えた4月下旬、悠斗は監督から「今年の夏の大会は君たちにとって最後のチャンスだ。全力で取り組んでくれ」と激励の言葉を受けた。彼にとって、この言葉は強い重みを持って響いた。これまで以上に集中力を高め、チームメイトと共に一丸となって練習に取り組む悠斗の姿は、6年生としての自覚を感じさせた。


試合のシュミレーションも始まり、ポジションごとの役割やセットプレーの確認が進められた。昨年の悔しさを忘れず、どの局面でも冷静に対処するためのメンタル強化も図られた。試合前の精神的な準備も重要だと感じていた悠斗は、瞑想やリラクゼーションの方法を取り入れ、心のバランスを整える努力もしていた。


さらに、今年の大会では新たなルール変更や対戦相手の研究も必要だった。昨年対戦した強豪チームたちの動向を確認し、その戦術や選手の特性を分析することも行われた。悠斗はその情報をもとに、どのように自分たちが戦うべきかを考え、監督やチームメイトに提案をする場面もあった。彼のサッカーに対する知識の深さや、分析力は周囲からも高く評価されていた。


そして5月に入ると、チームはさらに一致団結し、最終的な仕上げに入っていった。練習試合やフィジカルトレーニングを通じて、徐々に仕上がりを見せ始めたチーム。悠斗の目には、昨年よりも確実に成長した自分たちの姿が映っていた。「今年こそは絶対に勝つ」。そう誓った悠斗の胸には、昨年の決勝で敗北した相手へのリベンジの炎が燃え続けていた。

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