第13話 東京都選抜当日
東京都選抜の試験当日、悠斗は心臓の鼓動が耳に響くほどの緊張感に包まれながら目を覚ました。これまでの練習や努力が今日の試験で試されることを実感し、彼の心は不安と期待で揺れ動いていた。準備を終え、軽い朝食を取りながら頭の中でこれまでのプレーを思い返し、何度も自分に言い聞かせる。「今日は自分の力を全て出し切るんだ。」彼は試験会場に向かう道中、少しずつ気持ちを落ち着かせながら自信を取り戻していった。
会場に着くと、広々としたピッチが目の前に広がり、周囲には同じく東京都内の各区から選ばれたライバルたちが集まっていた。悠斗の目には、彼らが自分と同じようにサッカーに情熱を持ち、厳しいトレーニングを重ねてきた仲間であると同時に、超えるべき壁として映った。フィールド上では選手たちがウォーミングアップを始め、悠斗もすぐに合流した。冷静を装っていたが、内心では他の選手たちの実力が気になり、プレッシャーを感じていた。
試験の最初のセクションは、基本的なスキルテストだった。パス、ドリブル、シュート、そしてディフェンスの1対1の局面でのプレーが順番に行われる。悠斗は区選抜でのトレーニングを思い出しながら、自分の技術を最大限に発揮しようと集中した。ドリブルでは相手を難なく抜き去り、華麗なパスで味方にボールをつないだ。シュートの精度も高く、コーチたちがそのプレーに目を光らせているのを感じた。
スキルテストの後、次は試合形式のテストへと移行した。選手たちはいくつかのチームに分けられ、実際のゲームで自分の力を発揮することが求められた。悠斗はミッドフィルダーとして出場し、ゲームの組み立てに積極的に関わることを意識した。特に、相手ディフェンスの隙を見つけてスルーパスを送るプレーには自信があり、数回の決定的なチャンスを演出することに成功した。
試合中、悠斗は周囲の動きに目を配りながらも、自分自身のポジショニングに細心の注意を払った。相手チームのプレッシャーは予想以上に強く、特にフィジカル面での競り合いが激しかった。背が高く、体格の良い選手たちに対して、彼はテクニックとスピードで勝負しようと試みたが、時折押し負けてしまうこともあった。それでも、彼はめげることなく何度もボールに食らいつき、フィールド上での存在感を示し続けた。
試合の中盤、悠斗がボールを受けた瞬間、前線への絶妙なロングパスを送り込む機会が訪れた。そのパスが味方フォワードにピタリと繋がり、ゴールに結びついた。チームメイトが歓声を上げる中、悠斗は自分が大きな役割を果たせたことにほっとし、少し笑みを浮かべた。このプレーが自分の選抜に向けた大きなアピールポイントになるはずだと確信した。
だが、試験は一筋縄ではいかなかった。後半に入ると、悠斗の体力は徐々に限界に近づいていた。暑さと緊張の中で走り続けた彼の足は重くなり、判断力も鈍り始めた。それでも、彼は最後まで諦めず、相手との競り合いやディフェンスに全力で挑んだ。
試合終了のホイッスルが鳴り、全てが終わった。悠斗はフィールドを見渡しながら、自分ができる限りのことを出し切ったという実感と共に、その結果がどうなるかを不安な気持ちで待っていた。他の選手たちも疲労の色を見せながら、それぞれのパフォーマンスを振り返っているようだった。発表の時が近づくにつれ、悠斗の心臓は再び早鐘のように鳴り始めた。
東京都選抜という大きな目標に向けての挑戦は、ここで一段落を迎えた。しかし、悠斗にとってこの日がゴールではなく、新たなスタート地点であることを、彼は理解していた。選抜されるかどうかにかかわらず、サッカーへの情熱は決して揺らがない。
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