第12話 東京都選抜への準備

東京都選抜への推薦を受けた悠斗にとって、この知らせは大きな転機となった。選抜チームに推薦されるということは、自分が大田区選抜での試合や練習で積み上げてきた実力が評価された証拠だ。これまでに経験したことのないレベルの選手たちと対峙することになるため、その挑戦に対する期待と緊張が入り混じった複雑な感情が胸中を支配していた。


東京都選抜に向けた準備はこれまで以上に厳しく、かつ念入りに行われた。悠斗は特に、パスの精度とスピード、そして瞬時の判断力を高めるための練習に集中した。東京都選抜では、プレーのスピードが格段に上がることは容易に想像できた。パスを出す瞬間の判断が一瞬でも遅れれば、相手にボールを奪われてしまうだろう。そのため、彼はスピード感を持った練習を意識し、体力強化とともに技術の精度向上にも全力で取り組んだ。


自主トレーニングの内容も多岐にわたった。毎朝のランニングは欠かさず行い、身体を慣らすと同時に、持久力を高めるためのトレーニングに力を入れた。早朝の静けさの中でひたすら走り込む時間は、悠斗にとって精神的な鍛錬の場でもあった。都選抜でのプレッシャーに耐え抜くため、メンタル面の強化も欠かせなかった。彼はこのランニングを通して、自分自身との対話を繰り返しながら、自信を深めていった。


父親との時間も、悠斗にとって貴重なものだった。かつてプロを目指していた父は、東京都選抜レベルの試験で必要な技術や心構えについて的確なアドバイスをくれた。特に「焦らないこと」「自分のプレースタイルを貫くこと」の重要性を何度も繰り返した。悠斗は父の言葉を胸に刻み込み、自分のペースを守りながら冷静に試験に臨む決意を固めた。


大田区選抜でともに戦った仲間たちも、東京都選抜の試験に挑む者が多かった。彼らと再び情報を交換し合い、お互いの進捗やトレーニング方法を共有することで、悠斗は新たな視点を得ることができた。彼は、選抜試験に向けての戦術面でのアドバイスをもらいながら、練習メニューをさらに洗練させた。


試験前の数週間は、時間が飛ぶように過ぎていった。東京都選抜の試験が刻一刻と近づく中、悠斗の中に生まれていたのは、自分自身への確かな信頼と、これまでの努力の結果を試す場がやっと訪れるという高揚感だった。緊張ももちろんあったが、それを自分の成長に変えようという強い意志があった。彼は自分の実力がどこまで通用するのか、試験で思う存分試してみたいという思いに駆られていた。


試験当日が近づくにつれ、家族のサポートが一層強くなっていった。母は彼のために栄養バランスを考えた食事を準備し、兄弟たちもそっと声をかけて応援してくれた。悠斗はその温かい支えに感謝しつつ、自分自身の可能性を信じて練習を続けた。そしていよいよ、試験当日が目前に迫る。


その日がやってくる頃には、悠斗の心は決まっていた。緊張はあったが、ここまで来たらやるしかないという強い覚悟が芽生えていた。そして彼は、東京都選抜での成功を信じ、試験に臨む準備を完璧に整えていた。すべては、自分の未来を切り開くための第一歩だと自覚し、試験に向けて最高の自分を発揮するため、万全の状態で挑む心構えを固めていた。

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