第2話 新たな夢

イベントが終わり軽く買い物をしてから帰宅する。

イオンモールで見た格闘ゲームイベントが頭から離れなかった。

自分の中で封印していたはずの「何かに熱中する気持ち」が再び痛みを感じ始めていた。

プロプレイヤー、ササハラケイゴの圧倒的なプレイが印象的で、気付けばスマホを取り出し検索する。


「ササハラケイゴ」


動画サイトで彼の名前を検索すると、無数の動画がヒットした。

試合のハイライトや大会の映像が並ぶ中、ひときわ再生回数の多い一本の動画が目に留まる。

とある一分にも満たない試合の一部分だった。

薄暗い会場にいるのはほとんどが外国人。

ササハラの体力はほんの少しなのに対して、相手の体力には余裕がある。

このゲームはガードしても体力が削れてしまうため、近づくこともできない。

観客の1人が叫ぶ。


「レッツゴー、ジャスティス」


その声と同時に必殺技が繰り出される。

ササハラがガードをしようものなら体力が削れて負けてしまう。

誰もがササハラの負けを確信したが、本人だけは勝つことを諦めてはいなかった。

ブロッキングだ。

攻撃を特殊な方法でガードした時、削りを無効化するという技術。

しかしタイミングはシビアとなっていて、ましてや観客が熱狂する会場では、音を聞くこともままならない。

ササハラは体内の感覚だけで全ての攻撃をブロッキングし、反撃を行う。


ここで動画は終わったが鳥肌が止まらない。


「格闘ゲームはお遊びなんかじゃない。見る人を魅了できる競技なんだ」


ここまでの実力をつけるのにどれだけの努力をし、どれだけの挫折をしたのか。


「すげぇな…俺も、何かを諦めたままじゃダメだ…」


熱意が冷めやらぬままイオンモールで見ていたゲームを調べる。

どうやらストリークファイターシリーズは有名ではあったものの、今まで新規のプレイヤーが増えることはあまりなかった。

しかし今作のストリークファイター6ではモダンシステムと呼ばれる、新規を増やす試みが功を奏し大人気ゲームとなった。

発売から一年経ったが人気は落ちず、未だにプレイ人数は増えている。


「これは、俺にもできるのかな」


さらに興味が増し、「格闘ゲーム世界大会」で検索かけてみた。

すると、目の前に広がるのは、自分が想像してみたらなかった広大な世界だった。

年に一度、世界中から集まったプレイヤーが一堂に会し、熾烈な戦いを繰り広げる「EVO」という世界最大級の大会が存在することを知る。


気づけば時計の針は4時を回っていた。

そろそろ寝なくちゃ。


目を瞑り自分が世界大会の舞台に立っている姿を想像する。


「もしかして…俺も、もう一度挑戦できるんじゃないか…?」


この夜、大吾に新たな夢が芽生えたのであった。

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砕けた思いを再び拳に アソビマン @asobiman

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