第1話 失意の最中

「非常に言いにくいのですが、正直に言わせていただきます。その足で日常生活を送れるようにはなれますが、サッカーをもう一度プレイすることは無理です」


再び目が覚めたのは事故の1日後だった。

どうやらトラックの運転中に心臓に痛みが出た運転手が反射的にブレーキを踏んでいたらしく一命は取り留めたらしい。

しかし医者から言われた申告は到底簡単に受け入れられることではなかった。


生きる目的を失ったような気がしながらも、死ぬ勇気もないままリハビリを続け、再び歩けるようになった。

ただ走った時に両足に激痛が走り膝から崩れ落ちる。


「そうか、もうサッカーはできないのか」


絶望している中、さらに受け入れられない出来事が起きる。

高校の推薦の取り消しであった。

実際には推薦確定直前での取り消しだったが変わらない。


一度は自殺すら考えたが、両親に迷惑がかけるわけには行かないと、考え直す。


「サッカーは諦めよう」


両親と話し合った結果近くの公立高校に通うことにした。

幸い勉強に苦手意識はなく、偏差値自体は高くないが自由を売りにしているため、そこそこ人気がある高校だったが無事合格した。


受験勉強に打ち込み、多少立ち直り1人で出かけることも度々あった。


「ヒーローズシリーズの映画新作出てんじゃん。たまにはイオンモールにでも行くか」


特に今まで見ていた訳でもないが、受験のストレス発散のためにアクション映画を見に行く。

約2時間の映画を見た感想は、


「まあ、話はわからんかったな」


当たり前でひどい感想を心の中で呟き、映画館から出ると何やら騒がしい。


「なんかイベントでもやってんのか?」


一階に降りると大きなスクリーンにゲーム画面から何かを映しており、その横には2人のプレイヤーが横並びになって小さなモニターを見ている。


どうやら格闘ゲーム、「ストリークファイター6」のイベントが行われていたらしい。

片方がプロで片方が一般プレイヤーの様だ。

プロプレイヤーの体力バーの上30連勝と書いている。


どうやら2本先取で戦う人が変わるらしい。

つまり15人に負け無しということだ。


圧倒的な実力に連勝数が増えていく。

圧巻なプレイにスクリーンを食い入る様に見続ける。

まるで昔、サッカーにハマるきっかけになったエースストライカーの決勝点のように。


「では次で50人目ということで、最後とさせて頂きます。参加希望の方はいらっしゃいますか?」


一瞬でも永遠でもある様なこの時間は50人目の挑戦者を迎えるとともに終わろうとしていた。


ここで今まで無口だったプロプレイヤーが指を差しながら口を開く。


「お前、最後はお前だ」


周りの観客がこっちを一目見て小さな歓声をあげる。

つられるように俺も後ろを見ると1人の男性が手を挙げていた。


耳を澄ませるとどうやらこの人もプロらしい。


「最後となる50人目の挑戦者です。」


最後の試合が始まった。


序盤はどうやら挑戦者が攻め攻めな行動をしているらしく対処に困っているようだった。


48連勝中のプロの体力はどんどん減っていき、残りドットとなってしまう。


急に両者がジリジリとした膠着状態の戦いとなる。


挑戦者が動くがこれを全てガード、反撃をすることで、みるみるうちに体力を削っていく。


逆転勝利だ。


その勢いのままさらにもう一本を取り、50連勝となった。


「熱い展開になりましたね。両者ともありがとうございました。今回のゲストはササハラケイゴさんでした」


すごいものを見てしまった。






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