第50話 クラス分け

 翌朝、昨日と同じようにまだ暗いうちから叩き起こされて、生徒達が校庭に集合する。


 眠い瞼を擦りながら、ヨタヨタとグライウスの前に整列するアイラ達を見て、グライウスが朝日の代わりと言わんばかり自らの顔を真っ赤にする。


「お前らぁ! 俺の言ったことをもう忘れたのか!」


 寝起きの頭をグライウスの怒号がガンガンと揺らし、吹き飛んだ眠気の代わりに目眩が襲う。


 グライウスを怒らせた犯人は一体誰だと、アイラがキョロキョロと生徒を見回すが、他の生徒も心当たりが無いようだった。


「なんだ、誰も分からんのか? なら思い出すまでそこに立っていろ!」


 何人かの生徒から不満の声が聞こえ、グライウスの怒りに油を注ぐ。


「無駄口を叩く頭があるくせに、昨日の話は覚えていられない愚か者が居るようだな?」


「先生! お言葉ですが、このまま俺達の誰かが思い出すまで待っていても時間を無駄にするだけです。俺達が悪いのは分かりましたから、何を忘れてしまっているのか教えてくれませんか?」


 前列に並んでいたクライスが、一歩前に出て発言した。


 彼は、お前達の気持ちを俺が代弁してやったぞと、そんな雰囲気でしたり顔をする。


「クライス」


 グライウスがジリジリとクライスの前まで歩いていく。


「はい」


「俺は思い出せと言ったんだ。だが、お前は指示に従えないらしい。なら、もう部屋に帰っていいぞ」


「へ?」


 自分の言葉がこの場において正解だと思っていたクライスは、その言葉に間抜けな声を漏らしたまま固まってしまう。


「聞こえなかったのか? 俺は帰れと言ったんだ! それにも従えないようなら初めから俺に意見などするな!」


「す、すみませんでした!」


 クライスは、全員の前で恥をかいたと顔を真っ赤にしながら列に戻った。


「あ、やばい」


 二人のやり取りに全く関心を示さず、一人昨日のことを思い出していたアイラが、あることを思い出してつい口に出してしまう。


「アイラ! お前も俺に意見が言いたいか!」


「ち、違います! 先生の言葉を思い出したんです!」


「ほう。まだマシな馬鹿が居たか。言ってみろ」


「杖です! 杖を忘れました!」


「そうだその通りだ! 俺は訓練のときも杖を持ってくるよう言ったはずだ! なのにあいつ以外誰も持って来ていないんだ!」


 全員がグライウスの視線を追うと、杖を片手に澄ました顔をするラフィーナが居た。


「いいか! 魔術師はいつ如何なる時も杖を手離してはならん! それは学内でもだ! 分かったらさっさと取ってこい!」


「はい!」


 グライウスの言葉を皮切りに、生徒達が一斉に宿舎へ走っていくが、アイラは杖を手に校庭に向かいながら『まさか、これを持って校庭を走らされるのでは』と嫌な想像をしていた。


 そして、その想像通り杖を担いでの走り込みが始まったのだった。


 杖の重みが肩を圧迫して、辛くなる度に左右の肩に杖を移動させる。


「おらぁ! 何ちんたら走ってやがる! そんなんで戦場に出られると思うなよ!」


 周回が終わる頃には、肩も腕も痛みと疲労で悲鳴を上げていた。


「だーー! もうやってられないよ!」


 食堂にアイラの叫びが木霊する。


「もう明日からのこと考えたくないよ......」


 ルルが、隣で天井を仰ぎながら自分の肩を揉んでいる。


「朝からこんなことやらされてたらさぁ、今日一日やってけないよねぇ」


 相変わらず緩い口調のウィエラも、その顔には明らかな疲れの色が見え、フレンダは話すのも億劫なのか虚ろな目で黙々と食事を口に運んでいる。


 生徒の殆どが疲れの取れないまま講堂に集まっていると、そんなグダグダな生徒達を見てアギーが苦笑いを浮かべる。


「あはは、皆さんお疲れのところすみませんが、これからクラスを二つに分けますので、名前を呼びれた方はこの場に残ってください。それ以外の方は昨日に引き続き私と校庭で魔術の練習です」


 呼ばれた生徒の中にアイラも入っていた。


「えー! 私だけ別なの?」


「四人の中でアイラだけ魔術が使えてたから、仕方ないよ」


「じゃあね~」


 三人ともアギーに着いていこうと席を立つが、突然フレンダが立ち止まるとアイラのところまで戻ってきた。


「どうしたの?」


「その、クライスさんも名前を呼ばれてましたけど、私の居ない間に何か進展があったら、後で教えてくださいね!」


「ないってそんなこと!」


「ほら早くいかないと怒られるよ~」


 フレンダが、アイラに絡んでいることに気がついたウィエラに引っ張られていく。


「絶対! 絶対ですよー!」


 三人が居なくなり、ぽつんと一人残されたアイラは急に寂しさを覚える。


 すると、ラフィーナがアイラに話しかけてきた。


「隣いい?」


「いいけど、なんで?」


「アイラが暇そうにしてたしそれに、私のクラスメイトは名前を呼ばれなかったから」


「と、言うことはお互い寂しい独り身ってことか。いやーラフィーナが居てくれて良かったよ。頼りになるしさ」


「私何かアイラから頼られたことあった?」


「ほら、今朝一人だけ杖を持ってきてたじゃん。だから他の生徒よりも頼りになるかなぁって」


「そういうこと。なら、私もアイラを頼りにしたいから良いとこ見せてね」


「任せてよ!」


 そう言ってアイラが胸を張っていると、講堂の扉が開かれて背の低い男が入ってきた。


 男は教壇に立つと、一人一人の顔を確認する。


「数字で見るよりもずっと少ないな。今日からお前達の体を預かるバールダリ・カンコードだ。早速だが、お前達の実力を測らせてもらう」

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