第46話相棒

 早朝の訓練を乗り越えると、待望の朝食が始まる。


 宿舎に併設されている食堂で全員食事を摂る。


 朝っぱらから疲労にどっぷり浸かった体を、温かいスープが内側から癒してくれる。


「あぁ~! 疲れたぁ」


 アイラが、疲労を追い出すように声をあげる。


「びっくりした、いきなり大きな声出さないでよ」


「でもそうなっちゃうのも分かるなぁ。まさか、寝起きにあんなことやらされるなんて思ってなかったもん」


「仕方ありませんよ。先生の言う通り一年後に向けて最適な体を作っておかなければなりませんから。それに」


 フレンダが、今日の運動の成果を確認するようにお腹をさする。


「これを続けていれば、きっと魅力的なボディになれるはず! そうすれば、どんな殿方でもいちころですわ!」


「フレンダは考えることがブレないねぇ」


 ウィエラが、朝食の目玉焼きをつつきながら呆れたように言う。


「案外、フレンダみたいな考え方の方が、辛い訓練も乗り越えられるのかもね。私なんか気がついたらここに居たようなものだし」


 そう話すルルは、よほど訓練がきつかったのか、まだ疲れたような顔をしている。


「そうなの?」


「うん。自分が魔術を使うなんて想像もしたことなかったし、あなたには適性があるからって言われても正直実感がないと言うか」


「分かる、分かるよぉその気持ち。でも、お金が貰えるのはいいとこだよね~」


「そこは助かるよね。うち、戦争に巻き込まれる前に家族で避難したからさ、これでちょっとでも楽をさせてあげられるよ」


「え! 何それ私聞いてないんだけど」


 ウィエラとルルから想定していなかった話が飛び出し、アイラは自然と声が大きくなる。


「うち、元々はフレイダル領に家があったんだけど、隣接してるリンクウッド領が落ちたって聞いて急いで避難したんだよ」


「いやそっちもだけど、そっちじゃなくてお金の方!」


「あら、アイラさん説明は受けなかったんですか? 私は入学の話が来た時に聞きましたけど」


「聞いてない聞いてない!」


「それじゃぁ、話しに来た人がよっぽど間抜けだったんだろうねぇ」


「いや、ブラッドさんはそんな人じゃないと思うんだけど......」


 アイラは、ブラッドとフリマランが訪ねて来た日のことを思い返し、それが元々イルゲンを目的としたものであったことを思い出す。


「だからかぁ~!」


 アイラが頭を抱えてため息をつく。


「急に黙ったかと思ったら、ため息なんてついてどうしたの」


 ルルが不思議そうにアイラを見る。


「いや、何て言うか私にところに話が来たときは、オマケみたいな扱いだったから」


「オマケ?! 魔術が使えるのに?」


「え? アイラ魔術が使えるの?」


「お金のことなんかよりそっちの方がよっぽど重要じゃないですか」


 ルルは、アイラが貴族でもないのに魔術が使えるのが周囲にばれないかと、気にしていたことを思い出し、口を塞ぐようなポーズを取る。


「ごめんアイラ、言っちゃった」


「ここの二人にはバレたっていいよ」


「その反応、本当に使えるみたいだねぇ。いや~喧嘩の時はむきになってそれっぽいポーズを取ってるのかと思ってたよ~」


「もしかして、アイラさん結構良いところの出だったりします?」


「そんなんじゃないよ。あんまり大きな声で話したくないけど、まぁ、これから魔術について困ったことがあれば私に聞いてくれていいからさ」


「いやいや、これはなかなかに心強い言葉を頂きましたねぇ。楽が出来そうで助かるよぉ」


「あくまで困った時だからね」


 悪い顔をするウィエラに、アイラが顔を近づけて念押しする。


「分かってるってば~」


 話している間に朝食の時間はあっという間に終わり、またしても校庭に集まるよう指示が出る。


 次は一体何をやらされるのかと、うんざりした様子で校庭に整列すると、グライウスが名簿を持ってやってくる。


「名前を呼ばれた者は俺のところまで来い」


 そう言うと、大量の木箱が台車に積まれて運び込まれ、グライウスが木箱の釘で留められた蓋を引き剥がすと、中から光沢を放つ銅色の杖を取り出す。


「こいつを今からお前達に配る」


 その言葉に、生徒達が色めき立つ。


「ついに魔術師って感じ出てきたねぇ」


「これで晴れて私も魔術師デビューですわ!」


 ウィエラとフレンダが沸き立つ横で、ルルは浮かない顔をしている。


「どうしたのルル?」


「あんな高そうな物貰っても、本当に魔術が使えるようになるか自信がなくて」


「大丈夫だって~、アイラにだって使えるんだから」


「ちょっと、それ本人以外が言う台詞じゃなくない?」


「そうですよ! ここにいる殆どの人は魔術初心者なんですから、心配する必要なんてないですよ!」


「ありがとう。そうだよね」


 グライウスが、名簿を上から読み上げていき四人にも杖が手渡される。


 だが、ここで予想外の問題が生徒達を襲う。


「なにこれ、重いんだけどぉ......」


「もしかして、これ殆ど鉱石で出来てる?!」


 その杖は、持ち手の途中までは木で出来ているが、その先は全て固い鉱石が使われていた。


 杖の先端は、球体を縦に半分にたような半円形状になっており、半円の切断面は円柱状になっている。


 さらに、持ち手と先端の境目の辺りには謎の取っ手が付いており、フレンダがそれをスライドすると空洞が現れた。


「なんでしょうかこの穴」


「さぁ? お菓子でも詰めるんじゃない~?」


「いちいちこんなことで騒ぐな! いいか、お前達にはこれを片手で扱えるようになってもらう!」


「こんなの重すぎて無理だよ......」


「もし今無理だと思った奴は考えを改めろ! 魔術師として戦場に立つつもりなら、こんなことは最低限出来て当たり前だ!」


 グライウスの言葉で、生徒達が絶望に染まる。


「それと、この杖はあくまでも国から貸与された物だ。万が一壊すようなことがあれば、そいつの体を杖に見立てて同じ場所をひん曲げてやるから、そのつもりでいろ」


 アイラ達は、グライウスの服の上からでも分かる太い腕を見てそれが冗談ではないと思った。


「返事は?!」


 校庭に生徒達の声が響き渡る。

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