第45話頑張れ!立派な魔術師になるために
朝、と言うにはまだ暗い中で、校庭を走る一団がいる。
「なんで、こんな朝っぱらから、走らなきゃいけないの」
息を切らしながらアイラが愚痴をこぼす。
先頭では、あのグライウスが涼しい顔をして一団を先導している。
「おらぁ! ペースが落ちてるぞ! しっかり着いてこい!」
グライウスの怒号が、寝起きの頭に痛いほど響く。
ルルもウィエラもフレンダも、アイラと同じように苦悶の表情を浮かべながら、それでも必死に前に着いていく。
誰も彼もが悲鳴を上げそうな顔をしている中で、ただ一人ラフィーナだけがグライウスにしっかりペースを合わせている。
「なんだその体たらくは! まだまだ走りたりないのか?!」
グライウスが叫ぶ度に、皆うんざりしたような顔をする。
ふと、グライウスが後ろの方を見ると、一人だけ一団から明らかに遅れている生徒がいた。
「そこぉ! 遅れてるぞ! サボってるんじゃあない!」
「ハァハァ、はいすみません!」
その声につられてアイラも後ろを振り向くと、講堂でベルロックに楯突いていたあのイルネが、辛そうな顔で走っていた。
「ちょっとごめん」
アイラは、ルル達に一言謝るとペースを落としてイルネの横に付く。
「な、なんですかあなた」
「いいから前見て走って」
そう言って、アイラがそっと背中に手を当てると、イルネは幾分か走るのが楽になる。
「私、自分の力で走りますから」
「そんなこと言って、倒れたら意味ないよ。いいから、少しずつペースを上げてこ」
「......こんなことされても、何も返せませんからね」
こんなことをしているアイラも、人のことを気にかけられるほど余裕があったわけではないが、同じ目標を持つ仲間が辛そうにしているのがどうしても見過ごせなかった。
アイラのサポートもあって、イルネのペースが上がり最後尾に付くことが出来た。
「よーし、そこまで!」
グライウスの号令とともに、全員その場に座り込む。
朝も始まったばかりだと言うのに、全身を汗でびっしょりと濡らし、汚れるのも構わず倒れる者もいる始末。
しかし、息を切らしてはいるもののラフィーナだけは一人立っていた。
「お前らこんなものでへばっていては、戦場になど出られんぞ!」
「こんなもんが、魔術の、なんの役に立つんだよ」
ぼそっとクライスがそんなことを言うと、グライウスの目がギラリと光る。
「貴様、意見を述べる時は名前と番号を最初に言うんだ」
「や、俺は別に意見なんて」
まかさ聞かれているとは思わず、クライスは咄嗟に訂正する。
「ふん。体力もなければ根性もなしか。いいかお前ら! 魔術師には強靭な体力が必須だ! 軟弱な体で魔術を使えば、その力に体が負ける! 強力な魔術を使う際に体力がものを言うのは火を見るより明らかだ! それが分からんやつは何も為せずに死ぬだけだ! 分かったか!」
「はい」
ラフィーナを始め、極少数が返事を返す。
「声が聞こえんぞ! まだ走りたいのか!」
その言葉に、全員が慌てて返事をする。
「出来るなら最初からそうしろ! 次、手間をかけさせたら只じゃおかないからな」
次に同じことが起こったら、一体何をさせられるのかと恐怖にアイラ達の背筋が凍る。
「いやー、朝からえらい目にあったね」
アイラがイルネに笑いかける。
「さっきは、ありがとうございました」
「いいって、これから一年一緒にやってく仲なんだから」
そこへ、ルル達がフラフラになりながら集まってくる。
「急にいなくなっちゃったから何事かと思ってビックリしたよ」
「言ってくれれば私達だって協力したのにさぁ~」
「ごめん、あんな状況でまともにしゃべれなくってさ」
「そちらは、イルネさんでしたかしら」
「なんで私の名前を?!」
驚くイルネに、四人は顔を合わせて笑う。
「皆の前であんなことしたのに、もう忘れちゃったの?」
「あ......」
イルネは、講堂でのことを思い出したのか顔が真っ赤になる。
「こっちだけ名前をしってるのは公平じゃないよね。私はアイラ。そっちの三人は順番にルル、ウィエラ、フレンダ」
「宜しくねぇ」
「よ、宜しくお願いします」
そんな光景を、少し離れたところで見つめる者がいた。
「君は、声をかけてあげなくていいの?」
反射的振り向くと、ラフィーナが側に立っていた。
「別に、必要ないから」
「冷たいね。彼女は昨日君のために声をあげたんじゃないのかい?」
ラフィーナが声をかけたのは、昨日イルネを庇った隣の修道女であった。
「あれは彼女が勝手にやったことだし、私には関係ないよ。それに」
彼女は、言葉を止めてイルネを見つめる。
「それに、馴れ合いでどうにかなる程、この戦争は甘くないから」
彼女の視線に気がついたイルネが、満面の笑みで向かってくる。
「カルネ姉様!」
イルネは、彼女を姉と呼んで抱きついた。
「よさないかイルネ」
抱きつくイルネを、カルネがそっと引き剥がす。
「いいかいイルネ。お前もここに来た理由は分かるだろ?」
「はい」
「なら、一人でも生きていける力を付けないと。戦場に出たら、誰も、私も、フリマランさんも助けてはくれないんだから」
「分かりました」
どこか納得いかないような様子のイルネに、カルネは優しく頭を撫でる。
「良い子だ」
ラフィーナは、そっとその場を離れてアイラ達のところへと歩いていった。
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