第39話最悪なスタート
「どーして初日からこんなことに......」
そんな愚痴を溢しながら、アイラは宿舎の長い廊下を歩く。
廊下はアイラより先に到着していた者達で入り乱れており、部屋の前を通ると時折楽しそうな声が聞こえてくる。
部屋の上に掲げられた番号を頼りに進んでいくと、五十二の数字が見えた。
アイラは、怒り混じりの落胆した気持ちで扉を乱暴に開けると、目に入った壁際の机の上に荷物を置く。
「大体、あっちから絡んできておいて、いざとなったら『俺は悪くない~』なんて言っちゃってさ」
悪意の混ざった物真似をしながらため息をつく。
「あ、あの~」
「そりゃあ私も魔術を使おうとしたし、そこは悪いと思うけど、それだってあいつが挑発さえしなければ」
「あのー!」
耳元で大きな声が聞こえ、驚きでアイラの体が飛び上がる。
横を見ると、アイラの様子を不安げに伺うように見つめる少女の姿があった。
「びっくりした~!」
「ごめんなさい! 驚かせるつもりはなかったんです。でもあなた、私に気づいてないみたいだったから」
よく見ると、その少女の物と思われる荷物が置いてあり、アイラは自分が後から部屋に来たのだと気付いた。
「こっちこそごめんなさい! てっきり自分の部屋だと思ってて」
慌てて飛び出し部屋の番号を確認するが、そこにはハッキリと五十二の数字が書かれている。
「あれ、おっかしいなぁ」
「部屋は合ってると思うよ。ここ、二人一部屋みたいだから」
そう言われて改めて部屋を見渡すと、二段ベッドに二人分の机が用意されており、少女の言う通りらしかった。
「それじゃあ今日からあなたとルームメイトってこと?」
「そうなんじゃないかな」
アイラは、気を取り直して両手を軽く服で払うと、少女に握手を求める。
「私、アイラ・ソライラス。宜しくね」
「私は、ルル・デイワーズ。こちらこそ宜しく」
ルルは、茶髪のショートヘアーで、顔にはどこかあどけなさを残した少女だった。
「それより大丈夫?」
「ん? 何が?」
「部屋に入ってきたとき、なんか思い詰めたような顔をしてたし、イライラしてるようだったから」
「あ~、それね」
アイラは、一瞬素直に話してもいいかと思ったが、どこかよそよそしい様子のルルに事実を告げたら、更に不安にさせてしまうのではと考えて、黙っていることにした。
「まぁちょっとあってね。でも大丈夫! 大したことじゃないから」
「ならいいんだけど。そうだ、ベッドのことなんだけど、アイラはどっちがいい?」
「ベッド?」
「うん。ほら、二段ベッドだから上と下どっちがいいかなって」
「それなら上」
と、言いかけたところで、ここで自分の希望を押し付けるのは図々しいのではないかと思った。
「じゃなくて、ルルはどっちがいい?」
「私? 私はどっちでもいいよ」
そう言いながらも、ルルがチラッと上を見たことをアイラは見逃さなかった。
「なら、私は下にしようかな。ルルもそれでいい?」
「うん!」
ルルの顔が少し明るくなり、素性の分からないルームメイトへの不安が少し和らいだようだった。
早々に酷い目にあったが、これから一年間苦楽を共にするルームメイトとは仲良くやっていこう、アイラのそんな決意を引き裂くように、部屋の外から怒鳴り声が聞こえてきた。
「アイラ! アイラ・ソライラスはいるか!」
「アイラ、呼ばれてるみたいだけど」
ルルの顔が曇り、アイラをまた不安そうに見つめる。
「あれ? なんだろなぁ? ちょっと行ってくるね、あはは」
心当たりがないと言った風に、白々しい演技をしながらアイラは部屋を出る。
廊下に出ると、先程のガタイの良い男が待っていた。
「着いてこい」
「どこに行くんですか?」
アイラの質問に男は答えず、先に進んでしまう。
後ろを振り返ると、ルルが顔を出してアイラを心配そうに見つめていた。
アイラは、苦笑いをしながら手を振る。
騒動の主を一目見てやろうと、部屋から野次馬達が廊下を覗き込んでおり、男が通るとその首が引っ込んでいく。
男に連れられるまま、アイラは宿舎を出ると広場を横切って一際大きな建物の中へと入っていく。
生徒で賑わっていた先程の宿舎と違い、ここは人の気配がなく静かでどこかひんやりとしている。
廊下に二人の足音が響くなか、アイラは黙って階段を上っていく。
男がとある部屋の前で立ち止まると、扉をノックした。
アイラが顔を上げると、そこには『校長室』の文字が刻まれている。
「入れ」
「失礼致します。ソライラスを連れて来ました」
男の後に続いてアイラも恐る恐る部屋に入ると、ラフィーナとクライスが既に席に座っており、対面には髪の長い女が座っている。
「そこへ」
その女に促され、ラフィーナの横につく。
一瞬クライスとも目が合うが、クライスが敵意を剥き出しにして顔を背けたので、一瞬にしてアイラにも怒りの感情が沸き上がってきた。
アイラが席に着くと、女はアイラの顔をじろじろと見て、ほくそ笑む。
「君があのアイラか」
まるで自分を知っているかのような口ぶりに、アイラは女とどこかで会ったことがあったかと思い出そうとするが、全く心当たりがなかった。
「揃ったようだな。さて、話を聞く前に軽く自己紹介といこう。ここの校長のベルロックだ」
校長という言葉に、一気に緊張が走る。
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