第40話解決?
「折角の入学の日だと言うのに、校内で魔術を、それも人に対して使おうとしたとの話を聞いたんだが、それは間違いないかな?」
ベルロックの鋭い視線に晒され、アイラは僅かに頷く。
「そうか。事実か。残念だ。だが、そんな大層なことを理由もなく行う者が本校に入ってくるとは思えない。聞かせてくれるな」
「それはクライスが先に悪口を言ってきたからで」
「こいつが勝手に俺を敵視して突然魔術を使ったんです」
アイラの言葉に、クライスが被せるように話をする。
「ちょっと! 聞かれてるのは私なんだから黙っててよ!」
「どうせ有利になるような話をでっち上げるに決まってんだ! ここは被害者であるオレが話すのが公平ってもんだろ」
「そっちの方こそ出鱈目なことしか言ってないじゃん!」
「なにが出鱈目だ! 比べるまでもないが、お前と、貴族であるオレの言葉のどっちに信憑性があるかなんて考えなくても分かるだろ」
「二人とも止めんか!」
二人の喧嘩を見せ物でも楽しむかのように見ていたベルロックの横で、業を煮やした男から怒号が飛ぶ。
「喧嘩をさせるためにお前達をここに呼んだ訳じゃないんだ! 立場を弁えろ!」
「まぁそう声を荒立てるなグライウス。初日から可哀想じゃないか」
「しかし」
「今日くらい大目に見ろ」
グライウスは、不満を顔に残しながらも口を閉ざした。
「ただこの大男の言う通り、お前達二人に気の済むまで喧嘩をさせる時間はない。だから、目撃者である君に話を聞きたいんだが、いいかな?」
「はい。第三者である私の話であれば、公平性を重んじるクライスも納得するはずですから」
ラフィーナの牽制するような物言いに、クライスの顔が歪む。
「まず、アイラがクライスに魔術の行使を試みたのは事実です。しかし、そうなった経緯として......」
ラフィーナは、淡々と自らが見聞きしたことのみをベルロックに話し始めた。
そこには、アイラとクライスに対する私情はなく、徹底して事実のみを語っていた。
ラフィーナからの話を聞き終え、ベルロックが椅子に深く座り直す。
「ありがとう。簡潔で分かりやすくて助かるよ」
「いえ」
「さて、ことの顛末が分かったところで、私は教師としてお前達を叱らなければならない」
アイラは、ベルロックの顔が自分の方に動き、身を強張らせる。
「アイラ・ソライラス。理由がなんであろうと、学校の仲間としてこれから苦楽を共にする者に、魔術を向けてはならない」
「はい......」
「まぁ、君が今まで魔術についてどのような教育を受けてきたか分からない以上、そういった倫理について知らなかったということもあるだろう。もしそうであるなら、今回を機に覚えておいてほしい。出来るな?」
「はい」
「宜しい。そしてクライス・エルメノン」
それまで、アイラに対する説教をニヤニヤしながら聞いていたクライスは、まさか自分の名前が呼ばれるとは思ってもおらず、戸惑いの表情になる。
「自らに自信と誇りを持つのはいいが、他人を見下していい理由にはならない」
「いやそれはこいつが突っ掛かってきたから」
「クライス」
口調こそ優しいものの、ベルロックの整然とした様子に言い訳が通用しないと悟り、クライスは不貞腐れて視線を反らす。
「アイラにも言ったが、これから苦楽を共にする仲間と対立してどうする。人を見下さないのは当然として、誇りある貴族ならもう少し賢く行動することだ」
クライスは、答えない。
「まぁいい。時間はまだある。ここにいる間に私の言ったこと理解してくれると期待してるよ」
「あの~」
アイラが恐る恐る声を上げる。
「なんだ?」
「ど、どうなるんでしょうか、その、罰的なものは」
「罰? ああ、そんなものないない」
「え?」
わざわざ時間を取って呼ばれている時点で、ある程度の制裁を覚悟していたアイラは、ベルロックのあっさりした物言いに拍子抜けしてしまう。
「決まったように罰を与えても身にならなければ意味がないし、今言ったことを忘れないでいてくれればそれでいい」
「はあ」
「なんだ? 罰がないと張り合いがないか?」
「いえ、いえいえいえ! そんなことありません! 今言われたことを忘れないようにします!」
「素直で宜しい。さて、こんなことにこれ以上時間を使うわけにもいかないんでね。これにて解散、でいいかな?」
ベルロックが意見を求めるようにグライウスを見る。
「そうおっしゃるのであれば、私からはなにも」
「だ、そうだ。この後全体に対して呼び出しがかかるから、それまでは自室で待機するように」
アイラ達は校長室を出ると、お互い顔を見合わせる。
「たく、お前のせいで余計な時間を使ったじゃねえか」
「あんたねぇ」
アイラは、売り言葉に買い言葉になりそうなところを、ベルロックに言われたことを思い出して自分を落ち着かせる。
「はぁ。まぁいいや、とりあえず今回のことはお互い様ってことで終わりにしといてあげるから」
「お互い様もなにも、元々悪いのはお前だけだろ」
クライスにこれ以上何か言っても、また校長室に逆戻りしそうだと思ったため、アイラはラフィーナに話を振る。
「ありがとうねラフィーナ。あなたのお陰ですんなり話が通じたよ」
「気にしないで。当然のことをしたまでだから。国のために命をかける者同士仲良くやっていきましょう」
「俺は庶民と仲良くするなんてごめんだね」
「君の意見は聞いていないけれど」
ラフィーナに真顔でそんなことを言われ、クライスも怒るに怒れないようだった。
「やってらんねー」
そう捨て台詞を吐いてクライスは、一人そそくさと自室へ戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます