第9話テスト
「これをどこで?!」
アイラの驚いた様に、キースがニヤリと笑う。
「やっぱり分かるよね。そう、これは君の師匠の物。残念だけどこれをどこで手に入れたかは秘密」
キースは、そう言って自分の唇の前に人差し指を立てる。
補足するようにブラッドが続ける。
「何人もブローカーを挟んで居場所を掴めないようにしていたみたいだけど、販路をきちんと整理すれば案外分かるものだよ。で、イルゲンさんに辿り着いたって訳さ」
「そゆこと。見てよ、こんなに透き通っていて不純物がほとんど見られないし、何より効き目も抜群! 相当優秀な人が作ったものだって直感したよ」
「そりゃ、先生が作った物ですから」
少し得意気になるアイラ。
「そしたら、そんな魔術師の弟子が家に来るって言うもんだから、もう楽しみで楽しみで夜も寝られなかったもんね!」
アイラは、なぜキースがここまで興味を示しているのか理解し、同時に自分に向けられた期待の大きさに急に恐ろしくなった。
「確かに、先生は素晴らしい魔術師ですけど、私はまだ修行の身と言うかなんと言うか」
「あはは。そんなに緊張しないで。ただ私は、そんな優秀な人の弟子が何を見せてくれるか気になるだけ。結果がどうであれね」
「はぁ。でも、見せるって一体何をすればいいんですか?」
「それは勿論、あなたが習ってきたことをそのまま見せてくれればいいよ」
キースは、ウィンクすると席を立ち上がりアイラの手を引く。
「ど、どこに行くんですか?!」
「そりゃ魔術を使うのに適した場所。父さん達も来る?」
「お手並み拝見といこうじゃないか」
ジンウッドが意地悪く笑いながら立ち上がる。
「僕も見学させてもらおうかな」
引かれるがままに、アイラは中庭へ出るとそこには魔術の標的と思われる藁の束が設置してあった。
急に魔術を披露することになり、オロオロしているとキースの呼び掛けでメイドの一人が先端が丸くなった杖を持ってきた。
キースは、受け取った銀色の杖の支柱に付いているスライドを開き、中が空であることを確認するとアイラに差し出した。
アイラは、自分の身の丈程ある杖を恐る恐る受け取ると、その重さに驚いて地面に落としそうになってしまう。
「おっもた! キースさんこれは?」
「あはは、君にはちょっと重すぎたかなごめんね。でも、魔術を計る時はこれを使えって学校からの指示でね。兄さんが言ってたでしょ? 入学までに生徒の技量を報告する必要があるって」
「て、ことは、実質これが試験てことですか?」
今から行うことで、これからの諸々が決まってしまうのではないかと、アイラは不安になった。
「試験なんてそんな堅苦しいものじゃないから安心して。ほらリラックスリラックス」
だが、キースにそう言われてもアイラは不安を拭えなかった。
もしこれで酷い評価を付けられでもしたら、学校での扱いも酷いものになるかもしれない。
そう思うとアイラの手に自然と力がこもる。
「さ、なんでもいいから魔術を見せて。得意なものでいいからさ」
「ホントになんでもいいんですね?」
「勿論。あ、でもターゲット以外は壊さないでよ」
アイラは、ジンウッドの睨み付けるような視線に気付きますます緊張する。
しかし、冷静にイルゲンの教えを思い出し、深呼吸をして何とか自分を落ち着ける。
「い、いきます!」
三人の視線を一身に浴びながら、アイラが口を開く。
「火炎術式・紅蓮突き!」
アイラの掛け声と共に杖の先端から炎が飛び出し、藁の束を貫いた。
貫かれた部分が丸く焦げ落ち、束はそのまま倒れた。
「ど、どうでしょうか」
不安げにアイラは後ろを振り返る。
だが、三人は、アイラに声をかけることもなく倒れた藁の様子を見に行く。
アイラは、自分がなにかやらかしてしまったのではないかと危惧していると、ブラッドから声がかかった。
「アイラさん杖を見せてもらってもいいかな?」
「は、はい!」
駆け寄ってきたアイラからブラッドは杖を受け取ると、キースが確認した杖のスライドをもう一度開いて中を確認する。
「何もないか」
「触媒が入ってないのは私が確認してるよ」
「と言うことは、この年齢で内変化を」
「威力は、申し分無いんじゃない?」
二人はあーでもないこーでもないと口々に意見を交わす。
と、不意にキースがアイラの方を見ると、アイラの手を握った。
「いやー、流石魔術師の弟子だけあるね! 触媒も無しに火炎術式とは!」
「あ、ありがとうございます!」
その言葉にアイラは、今まで抱えていた不安が一気に晴れ、笑顔になる。
厳しい視線を向けていたジンウッドの評価ぎ気になり、アイラはジンウッドを見る。
しかし、ジンウッドはこの結果がつまらなかったのか黙って屋敷に帰っていってしまった。
「さて、それじゃ私は学校への報告書を作成しなきゃいけないから。兄さん後は宜しく!」
キースは満足した様子で屋敷に戻っていった。
「それじゃ後片付けはメイドに任せて、次はアイラさんの部屋に案内しようか」
「部屋ですか?」
ブラッドはメイドに杖を返すと、アイラを部屋へと連れていった。
「ここが、私の部屋?!」
ブラッドに案内された部屋に、アイラは驚愕していた。
広々とした空間には、中庭を見渡せる窓があり、意匠の凝ったドレッサーに一人で寝るには持て余すほどの大きいベッド。
「気に入ってもらえたかな?」
「気に入ったなんてそんな、私には勿体無いですよ!」
「まあそう言わずに。学校に行くまでの仮住まいだけど、ここにいる間は好きに使ってくれて構わないよ。それと」
と、ブラッドの合図でメイドが一人現れる。
「彼女を君の世話役に付けるから、困ったこと後あれば彼女を頼るといい」
「メイドのドレッタです」
「アイラです。宜しくお願いします。て、メイドなんてそこまでして頂かなくても大丈夫ですよ!」
「この屋敷は広いからね。一人で歩き回るとすぐに迷子になってしまうけれど、それでもいらないかい?」
「そ、それはぁ」
アイラの悩む姿にブラッドがクスクスと笑う。
「それじゃドレッタ、後は頼んだよ」
「承知致しました」
「あ、ちょっと!」
アイラが止めるのも聞かず、ブラッドはどこかへと行ってしまった。
突然二人きりにされ、アイラは気まずそうにメイドを見る。
「えと、それじゃ短い間ですけどお世話になります」
「はい。何かあれば遠慮なくお申し付けください」
メイドは無表情のまま答える。
「それじゃあ早速なんだすけど」
「はい」
「お手洗いってどこですか?」
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