神殿都市 コネツヴィル

計画

 アランは宿に戻ると、静かにトランクケースを開け、中から地図を取り出してテーブルに広げた。広がった地図をじっと見つめながら、次のルートを思案する。しばらく視線を地図に走らせながら、ヴィエルナを通り、最終目的地であるノトスへと至る道を慎重に確認し始めた。


「ヴィエルナか……」


 アランはつぶやきながら、その国について思いを巡らせた。


 ヴィエルナはオースチアの西に位置し、豊かな自然と深い森に囲まれた国だ。ゼーゲン川の上流に位置し、古くからの伝統文化と強い家族の結びつきが色濃く残る土地で、風の女神ストリナを信仰する教会が政治的にも絶大な力を持っている。この国では特に風魔法が神聖視され、ストリナの加護を受けた者たちは、他の風魔法とは異なる特別な力を持つと言われている。しかし、宗教的な統一が社会の根幹であり、異教徒に対しては厳しい弾圧が行われ、異なる魔法を使う者は異端視される危険がある。


 まずは、ルート上にある都市コネツヴィルに目をやった。ヴィエルナの山脈の麓に位置するこの都市は、風の女神に捧げられた神殿を中心に形成されており、多くの巡礼者が訪れる神聖な場所だ。山の頂は神域とされ、一般人が踏み入ることはできない。コネツヴィルを通る道は避けられないため、宗教的戒律を意識する必要があった。


「通行するだけなら問題ないだろうが、気をつける必要があるな。」


 アランは慎重に考え、次に進む都市レシグラに目を移した。広大な平原に位置し、風を利用した魔法具の開発が盛んに行われる都市である。この街は農業が主要産業で他の地域との交流もあるため、風の女神への信仰が市民生活に深く根付いているが、コネツヴィルほどの宗教的圧力は少ない。


「ここまで行けば少しは気を緩められるかもしれないな。」


 地図に視線を戻しながら、次の旅を慎重に思い描いた。レシグラを越えた先に広がるノトスの地にていくつかの都市を通過し、海岸沿いを進んで目的地である館へたどり着くことになる。


「少々厄介な旅になりそうだな。でも、頼まれた重要な依頼だ。やるしかない。」


 地図を確認し終えると、それを丁寧に畳んでトランクケースにしまった。彼は次の旅に向けて、心の中で計画を再確認しながら、部屋の片隅で静かに思案を重ねていた。複雑な依頼の内容が頭を巡り、どのように進めるべきかを慎重に考えたが、時間が経つにつれて疲労が身体を支配し始める。


 ベッドに横たわり、翌日の旅の準備を考えていると次第に瞼が重くなり、アランは静かに眠りについた。

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