水の咆哮

 アランはエデルの応急処置を終えると、すぐに戦況を見渡し、決断を下した。エデルは大きなダメージを受けていたが、まだ完全に動けないわけではない。だが、前線で戦い続けるには危険すぎる。


「エデル、後ろに下がって!ここは僕が前に出て時間を稼ぎます。少し休んで」


 エデルは一瞬躊躇するも、アランの決断力に頷き、少し後退することを決めた。


「分かった。だが、無茶はするなよ…!」


 アランはその言葉に微笑みを返しながら、魔獣の前に立ちはだかった。


「ノア、エデルを少し後ろに下げてくれ。ベルタ、僕が引きつける間、援護を頼む!」


 ノアは即座にアランの指示を受け、エデルの腕を引き、戦闘範囲から少し離れた場所まで退避させる。エデルは自らの足で立とうとしつつも、痛みに顔をしかめていた。


「すまない、ノア。助かる……」


 ノアは無言で頷き、エデルの安全を確認しながら周囲を警戒する。


 一方、アランは魔獣の鋭い爪と圧倒的な魔力に対して、冷静に立ち向かっていた。トランクケースで魔獣の攻撃を受けつつ、攻撃の隙を狙う。


「さっきはよくも!」


 怒りを滲ませたベルタは、再び魔力を高めて火の魔法「メディグニス」を練り上げた。炎が彼女の手の中で激しく燃え上がり、魔獣へと放たれる。


 しかし、魔獣はすぐに反応し、その体を覆うように水の壁を立てた。火球が魔獣の放った水の壁に衝突し、再び激しい音を立てながら相殺された。


「また…!この魔獣、単なる力押しじゃない」


 ベルタは悔しそうに叫んだ。魔獣は、火の攻撃に対して瞬時に水を使って対応している。自分の魔法では勝ち目が薄いことが分かった。


 アランは魔獣の圧倒的な魔力を前にして、これ以上の戦闘を続けるのは危険だと判断した。ベルタの火球が再び水の魔法に相殺され、劣勢が続く中で、撤退を図る決意を固めた。


「まずい…これ以上は無理だ。撤退しよう。」


 エデルはすでに傷を負っており、無理をさせるわけにはいかない。ノアも周囲を警戒しながら、アランの指示を待っていた。ベルタも息を切らしながらアランに目を向け、頷く。


 しかし、魔獣が息を整え、その体に再び強大な魔力を集め始めた。周囲の空気がを震え、地面までもが揺れ、圧倒的な力が蓄えられているのが感じ取れる。次の攻撃が何かを察した瞬間、エデルの表情が引き締まった。


「魔力を貯めてる…何か来るぞ」


 魔獣はその巨大な口を大きく開き、水のブレスを放とうとした。魔力が集中し、膨大な水が一瞬で形を成してアランたちに向かって迫ってきた。


「まずい…!」


 アランはすぐに反応し、飛び出すと素早くトランクケースを前に出した。ケースへ魔力を込めると強力な魔力の壁が目の前に現れる。


「シールデクス!」


 巨大な水のブレスが放たれ、アランの障壁に激突した。水の勢いは凄まじく、バリア全体に響くような衝撃が加わり、アランの体にも負担がかかる。しかし、彼は全力で魔力を注ぎ込み、必死に耐えた。


「くっ…何とか防いだ…けど、また来る!」


 アランがそう言い終わる前に、魔獣は再び魔力を集め始め、次の水のブレスを放つ準備に入っていた。


「くそ、もう一度は…」アランは苦悶の表情を浮かべる。さっきの防御で魔力を大きく消耗しており、再び同じ強力な障壁を作ることはできない。


 ベルタが焦りの色を浮かべて叫んだ。


「アラン、何か他の方法は…!」


 アランは瞬時に状況を判断するも、限界を感じていた。もう一度同じ強力な障壁を作る余力は残っていない。周囲を見回しても、手立てが見つからず、心が次第に重くなる。


「もう、無理だ…」


 アランの心に諦めの感情がよぎった。魔獣が再び魔力を溜め込み、水のブレスを放つ瞬間が迫っていた。そして、その瞬間、轟音と共に強烈な水のブレスが放たれ、アランたちに向かって飛んできた。

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