追跡

 魔獣は激しい攻撃を受け、体が傷つき、動きが鈍くなっていた。エデルとアランの連携攻撃に加え、ベルタの強力な魔法とノアの正確な援護が効果を発揮し、ついに魔獣は疲弊し始めた。


 その巨大な体が揺れ、魔獣は低いうなり声を上げると、体を翻し森の奥へと逃げ込もうとした。エデルがそれを見逃さず、すぐに判断を下す。


「逃がすな!追うぞ!」


 ノアが素早く追跡し、魔獣の逃走ルートを確認しつつ、後を追う。ベルタは後方で急ぎながら、次の魔法を準備している。


「まだ終わりじゃないわよ!」ベルタが息を切らしつつ言いながら、目を輝かせて魔獣の動きを見つめていた。


 ノアは森の中を冷静に走りながら、魔獣の痕跡を探し出し、他のメンバーに報告した。


「こちらだ、森の奥へ逃げている。すぐに追い詰められる!」


 エデルは剣を握り直しながら、決意を固める。


「奴を見失う前に仕留めるぞ。みんな、気を緩めるな!」


 四人は息を合わせ、逃げていく魔獣を追ってストロメンドの森の奥深くへと足を踏み入れていった。森の中は薄暗く、草木が視界を遮るが、彼らの連携は崩れることなく、魔獣の姿を捉え続けた。


 魔獣を追って進むと、突然、辺りが不気味に静まり返った。


 アランが周囲を警戒しながら、声を低くして言った。


「嫌な予感がする......」


 その瞬間、魔獣が突然立ち止まり、再びこちらを振り返った。傷ついていたはずの魔獣の目には、鋭い光が戻り、その体から強烈な魔力の波動が放たれた。周囲の空気が重くなる。魔力の余波に触れた瞬間、肌が鋭く反応し、緊張が全身を駆け巡った。


 エデルも顔をしかめながら剣を握り直す。


「くそっ、こんな状態でもまだ力を残していたとは…!気を抜くな、全力でかかれ!」


 四人はそれぞれの役割を意識して体勢を整えた。ベルタが声を張り上げる。


「なんて魔力なの…!でも、ここで退くわけにはいかない!」


 ベルタが魔力を練り上げ、メディグニスを放つ。火球が魔獣に向かって突き進んだ。しかし、魔獣は素早く反応し、その体から強烈な水の魔法を解き放った。水の奔流がベルタの火球と激突し、激しい音を立ててぶつかり合う。


「何…!?相殺された!?」


 ベルタの驚きの声が響く。火と水が衝突し、蒸気が一瞬で立ちこめて視界が遮られた。


 その一瞬を魔獣は見逃さなかった。


 魔獣は霧の中から突然姿を現し、ベルタに向かって鋭い爪を振り下ろして襲い掛かってきた。ベルタはその不意打ちに反応が遅れ、目を見開いて呆然とする。


「危ない、ベルタ!」


 エデルが叫び、反射的にベルタの前に飛び出した。彼の剣が咄嗟に振り上げられ、魔獣の爪を受け止めたが、圧倒的な力に押し負け、エデルはその衝撃で体を後ろに弾かれた。鋭い爪が彼の鎧を貫き、肉に達する。


「くっ…!」


 エデルの体から血が流れ始めるが、彼は必死に耐え、ベルタを守りきった。ベルタは驚愕の表情でエデルの姿を見つめる。


「エデル…!ごめん、私が…!」


 エデルは痛みをこらえながら、ベルタに向かって苦笑した。


「謝るな、ベルタ。大した怪我じゃない。お前を守るのは俺の役目だ。」


 アランとノアもすぐにエデルの状態を確認し、アランが飛び出してエデルたちと魔獣の間に入った。


「今すぐ応急処置をします。少しでも時間を稼いで!」


 ノアは冷静に状況を見極め、魔獣の動きを止めるために素早く動き始めた。彼は機敏に森の影を利用して魔獣の注意を引きつけ、短剣を巧みに投げて魔獣の足元を狙う。その攻撃は、魔獣の動きを封じ、アランたちへの攻撃を防いだ。


 アランはその隙を見逃さず、エデルの元に駆け寄った。彼は急いでエデルの傷口に手を当て、応急処置として一時的な治癒魔法を使って止血を試みる。


「エデル、しっかりして!今はこれで応急処置するしかないけど、少しでも時間が稼げるはずだ…!」


 アランの魔法によって、エデルの傷口から流れる血が徐々に止まっていく。完全な治癒ではないが、彼の傷口をふさぐには十分な効果を発揮していた。エデルは深く息を吐き、痛みが少し和らいだことを感じた。アランはエデルの応急処置を終えると、すぐに戦況を見渡し、決断を下した。


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