魔法植物の輸送
アランはリサに別れを告げると、再びけもの道を通って村へ戻るために歩き始めた。作物の鮮度を保つためには、急いでヴェースに届けなければならない。魔力保管庫に収めるまで、時間との戦いだ。しかし、焦る気持ちを抑えつつ、慎重に進んでいく。農場から飛行魔法を使うことはできない。飛び立つところを見られてしまうと農場の位置がばれてしまう危険性があるからだ。
けもの道を進んでいる最中、何度か飛行魔法を使いたい衝動に駆られたが、森の中ではそれもできない。木々が視界を遮り、飛行には向いていない環境だ。焦りを感じつつも、慎重に足を進めて村まで歩くしかない。
やがて、けもの道を抜け、村が見えてきた。広々とした視界が開け、ここでようやく飛行魔法を使うことができる。村にたどり着くと、広がる視界に安堵しつつ、すぐにトランクケースを手にしっかりと握り直した。ここからなら、ようやく飛行魔法を使うことができる。時間が限られているため、一刻も早くヴェースに作物を届けなければならない。
「よし、ここから飛ぶか」
アランは軽く地面を蹴ると、ふわりと浮かび上がり、飛行魔法を発動した。風が体を包み込み、彼は素早く高度を上げていく。地面がどんどん遠ざかり、下には村と森とが広がっていった。
空を切る風の音が耳に響き、目指すフリシータの街が遠くに見え始める。すぐに魔力保管庫に収めるため、速度をさらに上げた。
フリシータの関所の到着し、高度を下げた。兵士に身分証を見せ、軽く挨拶を交わして通過する。街はまだ目覚めたばかりで、静寂が漂い、霧が街を薄く包んでいる。静かな通りを急ぎ足で進み、ヴェースへと向かった。
アランは霧がかった静かな街を抜けてヴェースに到着した。街はまだ眠っているような静けさだったが、ヴェースの建物内は違っていた。朝一で仕事をこなしてきた運送士たちで賑わっており、慌ただしい空気が漂っていた。
アランはヴェースの受付に向かい、トランクケースを差し出した。
「アウスクレソンの配送、無事に完了しました。」
受付の係員は頷きながら、手早く書類に目を通し、確認作業を始めた。
「ありがとうございます、アランさん。鮮度が保たれていますね。これからよろしくお願いします。」
係員はアウスクレソンを受け取り、魔力保管庫へ預ける準備を進めた。アランは、無事に任務を終えたことに一息ついた。
アランは受付を終え、これから数日間、同じ仕事を続けることを頭に描いていた。しばらくの間、魔法植物の輸送を繰り返すことになる。運送士としての腕が試される忙しい日々が続くが、それだけに街の賑わいも増していく。
今日の仕事は無事に終わり、ヴェースを出た頃には、朝市が始まっていた。街の静けさの中、朝市だけは活気に満ちており、早起きした農家たちが新鮮な食材を並べ、通りには香ばしいパンの匂いが漂っていた。
露店には色とりどりの野菜や果物、肉、そして地元の名産品が並び、アランはその中をゆっくりと歩きながら、朝食の材料を物色した。卵がずっしりと詰まったかごを目にすると、彼はそれを選び、店主に声をかけた。
「これをお願い」
続けて、ベーコンとチーズ、そして焼きたてのパンも手に取った。パンの外はカリッと焼かれ、中はふんわりとした感触が手に伝わる。
「これで朝食は完璧だな」
アランは満足げに材料を買い揃え、手提げ袋に収めて帰路に就いた。これからしばらくは、ゆっくりと朝の時間を楽しむつもりだった。
宿に戻るなり、宿のキッチンを借りると、さっそく朝食の準備に取り掛かった。買ってきたパンを厚めにスライスし、トーストにするため火にかける。その間に、ベーコンをフライパンでじっくりと焼き始めた。ジュウジュウと音を立てて脂が溶け出し、香ばしい匂いがキッチンに広がっていく。
続けて、ベーコンの横で卵を割り、目玉焼きを作る。黄身がほどよく半熟になり、白身がこんがりと焼き上がると、アランは焼きあがったトーストにベーコンと卵を乗せた。仕上げに買ってきたチーズを薄く切って上に乗せると、トーストの温かさでチーズが少し溶け始め、完璧な朝食が完成した。
「いい感じだ」
アランは皿に盛り付けたベーコン卵のせトーストをテーブルに運び、席に着いた。静かな朝の光が窓から差し込み、仕事を終えた後のゆったりとした時間を感じながら、アランは一口かじった。
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