魔導運送士

魔法植物農場

　アランが農場に足を踏み入れると、辺り一面に広がる光が彼を包み込んだ。魔法植物が放つ淡い光が、周囲を幻想的に照らし出している。まるで星々が地上に舞い降りたかのような風景が広がり、静けさの中に自然の息吹と魔力が共存していた。

　しばらく歩くと、収穫をしている農家たちの姿が目に入った。その中の一人がアランに気づき、軽く手を上げて挨拶をした。

「少し待っててくださいね」と、彼女は静かに言い、作業に戻った。

　アランは、彼女の言葉に頷き、農場の風景を眺めながら待つことにした。この農場は沢の周りに広がっており、水辺に近い場所にはアウスクレソンの田んぼが整然と並んでいる。その田んぼはまるで鏡のように光を反射し、穏やかに揺れる水面がアウスクレソンの光と混じり合って、幻想的な光景を生み出していた。

　水辺から少し離れた場所には畑が広がっていた。ここには他の魔法植物が植えられているようだが、どれもまだ成長途中で、収穫にはまだ時間がかかりそうだ。畑の植物たちは穏やかな光を放ちながら、これからの成長を静かに待っているように見える。

　農場の奥に目を向けると、そこには、倉庫らしき建物が見える。木造の建物は周囲の自然に溶け込むように静かに佇んでおり、その近くには農家たちの住まいであろう建物もあった。

　風が優しく吹き、沢の水音が心地よく響く中、アランは静かに農場の息吹を感じながら、待っている時間を過ごした。

　アランが農場を眺めていると、遠くにある建物から誰かがやってくるのが見えた。収穫を終えたのだろうか、その手には梱包された作物がしっかりと抱えられている。徐々に近づいてくるその姿を見ながら、アランは少し背筋を伸ばし、準備を整えた。

　その時、東の空がほんのりと明るくなり始め、太陽がゆっくりと昇りつつあった。夜明けの柔らかな光が、農場全体を徐々に包み込み始める。先ほどまで幻想的に輝いていた魔法植物の光が、朝日によって消えかけながらもまだほのかに残っている。夜の静けさと昼の賑わいが入り混じる、その一瞬の移り変わりの中、農場は新しい一日の始まりを迎えていた。

　先ほどの女性が、収穫したアウスクレソンを抱えて戻ってくる。彼女はほっとしたような笑顔を浮かべながら、アランに近づいてきた。

「お待たせしました。これが収穫したアウスクレソンです。」

　彼女が差し出した袋には、ほんのりと光を放つアウスクレソンが詰まっていた。アランはそれを受け取り、魔導運送士としての次の準備に取り掛かる。朝の澄んだ空気の中、農場は目覚めるように動き始め、太陽の光がすべてを照らし出していた。

　アランは若い女性から受け取ったアウスクレソンを手にすると、左手に持っていたトランクケースを地面に置き、静かにその蓋を開いた。ケースの内側に刻まれた魔法陣が徐々に光を帯び始めると、アランは右手をかざして魔力を込めた。

　アウスクレソンを慎重にケースの上に乗せると、魔法陣が淡く輝き、収穫された植物を包み込むようにその光が広がっていく。アウスクレソンは瞬く間にケースの中に収まり、跡形もなくその姿を消していった。魔法陣が再び静まり、光が消えると、トランクケースは何事もなかったかのように静かに閉じられた。

「これで大丈夫です。ありがとうございました。」

　軽く一礼をしながら、アランはトランクケースを手に取った。朝の光が完全に差し込み、農場が少しずつ活気を帯び始める中、彼は次の行動に移るために準備を整えた。

　アランがトランクケースを手に取り、立ち上がったその瞬間、若い女性がふとこちらに視線を向け、少し首をかしげた。

「そういえば…いつも来る運送士さんとは違いますよね？今回はあなたが担当なんですか？」

　彼女は穏やかな表情で尋ねてきた。アランは少し微笑みながら、軽く頷いた。

「ええ、フードフェスの影響で依頼が増えていて、今回は僕が担当することになったんです。街は今、大忙しですからね。」

　女性は納得した様子で頷くと、「なるほど、大変ですね」と静かに返しながら、周りの忙しさに思いを巡らせた。

　アランは女性の質問に微笑みながら、軽く一礼した。

「そうですね、自己紹介が遅れました。僕はアランと言います。今回、フードフェスの期間中、輸送を担当することになりました。いつもは別の運送士が担当していると思いますが、これからしばらくは僕がこちらの輸送をお手伝いします。」

　そう言いながら、彼は女性に視線を向けた。彼女はアランの言葉を聞き、納得したように微笑みを返した。

「アランさんですね、よろしくお願いします。フードフェスが始まると忙しくなりますが、無事に運んでいただけると助かります。」

　アランは軽く頷きながら、「お任せください」と言って、しっかりとトランクケースを手に取った。

　アランが自己紹介を終えると、女性も柔らかな笑みを浮かべながら軽く会釈をした。

「私はリサです。この農場で収穫を担当しています。これからしばらくお世話になりますね。どうぞよろしくお願いします。」

　彼女はそう言いながら、アランに軽く一礼した。

「まだこれから農作業がたくさんありますので、私はこれで失礼しますね。」

　彼女はそう言うと、軽く挨拶をしてから収穫を続けるためにその場を離れた。朝日が少しずつ農場を明るく照らし出す中、アランはトランクケースを手に、リサの後ろ姿を見送り、その場を後にした。