第23話 アーマチュアウイルス

 アーマチュアウイルスのパンデミックについてインターネットで検索すると、当時の記事は結構残っていた。もちろん、えむぴいさんが書いた過去の記事も。夢の中のコミュニティ内でワクチンが作られて、現実同様の感染症対策が敷かれたこともあってか、研究対象にする偉い学者さんも現れるくらいだったそうだ。いずれにせよ大昔の出来事だ。


 まとめると、こういうことだ。メモリーカプセルに続く一連の夢を探索していたえむぴいさんは、あの廃校舎にたどり着く前、単独行動中にアーマチュアウイルスに似た症状を発症した。そのときはまだウイルスだとは思っていなかったのだろう。なぜならネオンライトカレイドスコープへの運営移管時の仕様変更でウイルスは根絶し、ゲームエンジン由来のバグでしか発生し得なくなっていたからだ。それから、あの踊り場であたしに出会った。


 マテリアルエラーの屋上にたどり着いてから、状況証拠的にこれがウイルスの再来かもしれないと思い至ったのだろう。ウイルスは接触感染するという。仕組みはわからないが、裏を返せばアバターに直接触れなければうつらないという道理だ。ジャスト淫夢とかいういかがわしい夢に行っていた理由も、これで少なからず見当がつくというものだ。


 そこにきて、今回の写真展だ。新着の夢やイベントの紹介は、そもそもが不眠通信社の本分でもある。日々去来する取材依頼プレスリリースのひとつに、山田を忘れるなからの依頼があったことは想像に難くない。少し調べれば、写真の一部から、山田を忘れるなが廃校となった北品川中学校の同窓生かもしれないという可能性にも思い至るだろう。もしえむぴいさんが車椅子にならざるを得なかった理由がバグではなくアーマチュアウイルスで、それに接触した場所が同窓生たちが投稿したメモリーカプセルシリーズのどこかなのだとしたら、山田を忘れるなをウイルスの出どころとして疑うのも無理はない。


 それが、アーマチュアウイルスによって自分の万華鏡とパソコンがぶっ壊されるまでのおよそ三十秒の間で、あたしが導き出した今回の顛末だった。

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