第11話 藤堂の策略と地方分断の危機

ある日、西郷の元に鳥取県知事の山根弘毅から突然の連絡が入った。彼との定期的な連携会議が急遽キャンセルされたのだ。


「山根知事、何があったんですか?何か問題が生じましたか?」


電話の向こうから山根知事は言葉を濁すように答えた。


「西郷知事、申し訳ないが、中央政府から急な要請が入ってね。少し、方向性を再考しなければならなくなったんだ。鳥取県の事情もある。申し訳ないが、今はこの話は進められそうにない」


西郷はその言葉に疑念を抱いたが、深く追及することはできなかった。山根知事がこういった形で連携を断るのは、今までにないことだった。そして、すぐに思い当たったのは藤堂悠一の影。藤堂が鳥取県に圧力をかけ、鳥取と島根の連携を断とうとしている可能性があった。


それから数日後、今度は広島県知事の中山隆志からも同様の連絡が入った。


「西郷知事、今回の共同プロジェクトだが、少しスケジュールを見直したい。広島としても、中央政府の新しい政策に注力することが求められていて、当面は我々の方針を調整する必要がある」


これまで西郷と手を組んで進めてきた交通インフラの整備や新幹線の延伸計画が、次々と停滞し始めた。藤堂が裏で地方知事たちを操作し、島根県を孤立させるための策謀を進めているのは明らかだった。


西郷は深い憤りを感じながらも、冷静さを保とうと心に決めた。藤堂が地方分断工作を進める中で、島根県がどのようにこの危機を乗り越えるかが、これからの大きな課題となる。もしこのまま他県との連携が崩れれば、島根の成長は停滞し、中央政府の圧力に屈することになりかねない。


ある夜、出雲市の自宅で西郷は書斎に籠り、今後の戦略を練っていた。孤立した状態でどのようにして県の発展を進めるべきか、また藤堂の圧力をどう跳ね返すかが課題だった。


その時、秘書の木村から電話が入った。


「西郷知事、鳥取県庁から興味深い情報が入りました。どうやら中央政府から大規模な補助金が急遽鳥取に流れる予定になっているようです。これは明らかに藤堂が鳥取を引き込むためのものかもしれません」


西郷はその報告を聞きながら、藤堂の意図がさらに鮮明になったことを感じた。補助金や中央からの資金は、地方自治体にとっては大きな力となる。特に、財政難に悩む地方にとっては、政府からの資金は魅力的であり、拒むことは難しい。しかし、それを利用して地方自治を中央の思惑に引き寄せようとするのが藤堂の狙いだった。


「やはり、そう来たか…」西郷は独りごちた。


翌日、西郷は山根知事に直接会うために鳥取県庁を訪れた。緊迫した状況の中、面と向かって話すしかないと考えたのだ。


山根知事は少し困惑した表情で、西郷を迎え入れた。


「西郷知事、わざわざ鳥取まで来てもらって申し訳ない。だが、今は中央政府との関係を考えざるを得ないんだ。私も県の発展を考えてのことだ」


西郷は冷静に、しかし強い決意を込めて話し始めた。


「山根知事、私は理解しています。財政面で鳥取が厳しい状況にあることも、中央政府からの支援が魅力的だということも。しかし、これは一時的な支援に過ぎません。中央に依存しすぎれば、地方の自治が侵される危険性があります。我々が自らの力で山陰地方を発展させる道を模索しなければ、未来はありません」


山根知事はしばらく黙り込んでいたが、やがて重い口を開いた。


「確かに…君の言うことは正しい。しかし、現実は厳しい。中央政府を敵に回して、我々が生き残る道はあるのか?」


その言葉に、西郷は強く頷いた。


「あります。我々が団結し、中央に依存しない経済基盤やインフラを築くことができれば、山陰地方全体が強くなります。鳥取と島根が手を取り合って、この地方を新たな経済圏に変えていくのです。地方の力を信じましょう」


山根知事は西郷の熱意に圧されるように、小さく頷いた。


その夜、西郷は鳥取から島根へ戻る車の中で、藤堂との対決がこれからさらに激化していくことを強く感じていた。藤堂の分断工作に対抗するためには、地方の結束が何よりも重要だ。しかし、その道のりは険しく、これからも多くの試練が待ち受けているだろう。


「この戦いは始まったばかりだ…」西郷は窓の外を見つめながら、次の一手を考え始めた。

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