第10話 中央政府との対決と藤堂悠一の策略

西郷健一郎は、全国知事会議で得た成果を胸に、島根県の未来をさらに明るくするべく、新たな戦略を練っていた。しかし、そんな彼の前に再び立ちはだかる存在があった。中央政府の実力者、藤堂悠一である。彼は地方自治体の自立を妨げ、特に地方創生に熱心な西郷を警戒していた。藤堂は全国的なインフラ整備計画に影響を与える立場にあり、山陰新幹線の延伸や交通インフラの拡充計画にも強い反対を表明していた。


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「藤堂悠一が動き出したか…」

西郷は秘書からの報告を受け、少しの間考え込んだ。全国知事会議の直後、中央政府内で藤堂が山陰新幹線計画の見直しを強く主張しているという情報が入ったのだ。西郷の目指す交通インフラの整備が大きく影響を受ける可能性があった。


「このままでは計画が頓挫する恐れがある。しかし、今後の島根の発展にとって新幹線延伸は不可欠だ」

西郷は決して後退するつもりはなかったが、藤堂がどのように動くかを見極める必要があった。


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数日後、西郷は東京へ向かい、中央政府の担当者との会談を行うことになった。会場は霞が関の一角にある官邸ビル。その場には、藤堂も出席していた。会議が始まると、まず中央政府側が山陰新幹線延伸計画に対する懸念を表明した。


「現状の経済状況を考えると、新たなインフラ投資には慎重になるべきです。特に、山陰地方への新幹線延伸は、費用対効果の観点から見ても疑問が残ります」

担当官僚がそう述べた後、藤堂がゆっくりと口を開いた。


「島根県の発展については理解していますが、中央政府としても限られた予算の中で優先順位を付ける必要があります。山陰新幹線は現時点では他の地域に比べて急ぐ必要がないと判断しています」


藤堂の言葉は、あたかも冷静な判断に基づくもののように聞こえたが、その背後には明らかに西郷の進める改革に対する牽制があった。彼の目的は地方自治体が中央政府に逆らえない構造を維持することだった。


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西郷はその言葉に対して冷静に反論した。


「藤堂さん、山陰地方の発展はこれまで長い間、他の地域と比較して遅れを取ってきました。新幹線の延伸は、この地域にとって重要なインフラ投資であり、観光や産業の活性化に直結します。経済効果が直ぐに現れないとしても、長期的に見れば日本全体のバランスの取れた成長に寄与するはずです」


藤堂は冷たい視線を西郷に向けたが、反論はしなかった。彼は感情を表に出さないタイプで、代わりに別の方法で圧力をかけてくるだろうと西郷は予感していた。


会議が終わり、西郷が会場を出ると、藤堂が彼に声をかけてきた。


「西郷君、地方の発展を目指す君の情熱は理解しているよ。しかし、中央政府の現実は君が思っているほど単純ではない。全体のバランスを考えなければならないのだ」


西郷はその言葉に少しも動じなかった。


「藤堂さん、私は地方が中央に依存し続けることが日本の未来を閉ざしていると考えています。中央集権的な政策では、地方の自立や創造力を阻害するだけです。島根を、いや地方全体を発展させるために、私はこの戦いを諦めません」


藤堂は微笑を浮かべたが、そこには冷ややかなものが感じられた。


「君がどこまでやれるか見せてもらおう」

そう言って、彼は踵を返して去っていった。


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西郷は東京での会談の成果に満足できなかったが、これで終わりではないことは分かっていた。むしろ、これからが本当の戦いの始まりだった。藤堂は力のある官僚であり、彼の支持を得るのは困難だ。しかし、西郷はそれでも島根の未来を信じて戦い続ける覚悟を固めていた。


その夜、島根に戻った西郷は、出雲市の県庁新庁舎の建設現場を視察することにした。広大な土地に建設が進む新庁舎は、島根県の新たな象徴となるべく、着々と形を成していた。西郷はその光景を眺めながら、自分が進むべき道を再確認した。


「ここからが本当の勝負だ。藤堂に屈するわけにはいかない。島根の未来のために、私は一歩も引かない」

彼の心には強い決意が宿っていた。


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翌日、西郷は島根県庁の幹部たちを集め、今後の方針についての会議を開いた。藤堂からの圧力に対抗するためには、中央政府との交渉だけでなく、地方自治体間での連携をさらに強化する必要があると考えたからだ。


「今後は、全国の知事たちとの協力をさらに強化し、地方から中央政府に対して一丸となって声を上げていく必要があります。特に、私たちが目指す山陰新幹線の延伸は、中国地方全体にとって重要なプロジェクトです。他県の知事たちと共に強力な連携を築き、中央に働きかけていきましょう」


幹部たちも力強く頷き、次なるステップに向けた準備を進めていくことを確認した。藤堂という強大な敵が立ちはだかる中で、西郷は決して諦めることなく、島根県の未来を切り開こうとしていた。


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こうして、中央政府との対立は激化の一途をたどりながらも、島根県は一歩ずつ前進していく。西郷健一郎の挑戦はまだ終わらない。彼の次なる一手が、島根の未来を大きく左右することになるだろう。

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