第2話 動き出した陰謀

西郷健一郎の「島根首都計画」は、国内外に大きな波紋を広げ始めていた。彼が提唱する東京からの首都機能移転というビジョンに、地方の自治体や若者たちが熱狂的な支持を寄せる一方で、既得権益を守ろうとする中央の官僚や大企業は明確に反対の立場を取っていた。


そんな中、東京にある政治家たちの非公開会議が密かに開かれようとしていた。


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場所は東京都内、某高級ホテルの一室。集まっていたのは数名の現職国会議員と影の権力者たちだった。彼らの顔には、緊張と不安の色が浮かんでいる。


「西郷健一郎の動き、放っておくわけにはいかない」


会議室の中央に座っているのは、内閣府の元大臣であり、いまだに政界に強い影響力を持つ**大迫元彦**だった。彼はゆっくりと口を開き、周囲の者たちを睨みつけるように見渡した。


「島根を首都にする?まったくもって狂気の沙汰だ。だが、あいつはただの狂人じゃない。このままだと、彼の影響力がどんどん広がり、我々の支配構造が崩れてしまう可能性がある。どうにかして彼の計画を阻止しなければならん」


会議に参加していた他の議員たちも、うなずく。


「西郷のアイデアには一部の国民が賛同しているが、我々にとっては脅威以外の何物でもない。もし彼が首都移転を成功させれば、政治の力関係は一変し、地方分権が進む。それは東京の権威の失墜を意味する」


大迫は静かに頷きながら、冷静に言葉を続けた。


「我々には二つの選択肢がある。第一は、彼を政治的に潰すこと。過去のスキャンダルやミスを掘り起こし、世論を彼から引き離す。しかし、彼にはそれを補うカリスマ性と実績がある。単純な攻撃では彼を倒せない」


「第二は…?」


他の議員が問いかけると、大迫は深く息を吸い込み、静かに続けた。


「第二の選択肢は、物理的に彼を排除することだ。西郷健一郎という存在そのものを、この世から消し去る」


その言葉に会議室は一瞬静まり返った。誰もがその意味を理解したものの、口を開く者はいない。ついに、彼らは禁断の手段に踏み込もうとしていたのだ。


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一方その頃、島根県では西郷の首都移転計画が着々と進行していた。彼のリーダーシップのもと、島根の地方経済は急速に活気づき、観光客や投資家が次々と訪れるようになっていた。


「すごいな、健一郎。この計画が始まってから、こんなにも早く反響が出るなんて…」


特別秘書の田中誠は、県庁の窓から外を見渡しながら感嘆の声を上げた。以前とは打って変わって賑やかになった街の光景に、彼は目を奪われていた。


西郷は机に座ったまま、淡々と書類に目を通していたが、誠の言葉に小さく頷いた。


「まだ始まったばかりだ。これからが本当の勝負だよ。東京の勢力が黙っているとは思えない」


その時、デスクの上に置かれた電話が鳴り響いた。西郷は電話を取り上げると、画面に表示された名前を確認して表情を引き締めた。


「中川教授だ」


中川教授――彼は西郷が大学時代に師事した恩師であり、首都移転計画の背後にいるブレーンだった。都市計画と経済の天才とされ、数々の政府プロジェクトに携わってきた実力者である。


「西郷、計画は順調に進んでいるようだな」


電話越しに聞こえる教授の声は、いつも通り落ち着いていた。だが、西郷にはその裏に隠れた何かを感じ取った。


「順調です。島根の発展はこれまで以上に加速しています。けれど、教授…あなたにはまだ何か計画があるんじゃないですか?」


西郷は静かに問いかけた。教授は一瞬の沈黙の後、含み笑いを漏らした。


「さすがだな、健一郎。実は、私の本当の目的についてはまだ話していなかった。君が計画を進める間に、ある『取引』が進んでいる。これから先、君はもっと大きな試練に直面することになる」


「取引…?」


「詳しくは、直接会って話そう。君が知るべきことは多い。そしてその時が来れば、君はもう後戻りできなくなる。東京の勢力との闘いは、まだ序章に過ぎない」


西郷は電話を握りしめながら、教授の言葉に耳を傾けた。彼はこの計画が単なる島根の発展を超えた、もっと深い何かを孕んでいることを直感的に理解し始めていた。


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その夜、東京では密かに動き出した陰謀の影が迫り、島根では西郷の知らぬところでさらに大きな力が渦巻いていた。果たして彼は、この計画を成功させることができるのか。そして、中川教授の「取引」とは一体何なのか…。


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