島根の逆襲

Nami

第1話 島根県知事、西郷健一郎の野望

202X年、日本はかつてない危機に直面していた。経済の停滞、少子高齢化の進行、地方の過疎化――長年にわたる課題は山積みだが、どれも根本的な解決策が見つからないままだった。特に地方は、東京一極集中の影響でその存在感を失い、人口減少が加速していた。


その中で、島根県知事に新たな人物が誕生した。西郷健一郎、年齢38歳。若くして島根県知事選に出馬し、破竹の勢いで勝利を収めた彼は、選挙中から人々の注目を集める大胆な発言を繰り返していた。


「島根を、日本の首都にする――」


その言葉は、島根県民だけでなく全国に衝撃を与えた。日本中のメディアが一斉にこの発言を取り上げ、ニュース番組では連日彼のコメントが放送された。大半の人々はその提案を非現実的だと笑い飛ばしたが、知事に就任した西郷はその言葉を本気で実行しようとしていた。


---


「首都移転計画を、正式に発表します」


就任後初めて行われた記者会見の場で、西郷はそう口にした。記者たちは一瞬、理解が追いつかずざわめいたが、すぐにその場は質問の嵐となった。


「西郷知事、本気でおっしゃっているんですか?島根を首都にするなんて――」

「具体的な計画はありますか?国の支持は得られると思いますか?」


だが、西郷は落ち着き払ってマイクを握りしめ、冷静な眼差しで記者たちを見回した。


「皆さん、私は本気です。島根は、単なる過疎地ではない。この地には長い歴史と豊かな文化があり、国土の中心に位置している。さらに、これまで無視されてきた地方が今こそ日本の未来を担うべきだと考えています。東京一極集中による問題は明らかです。地方の再生なくして、日本の再生はないのです」


記者たちは言葉を失った。一部の記者は薄笑いを浮かべたが、西郷の真剣な表情に次第にその笑顔は消えていった。彼の言葉にはただの夢物語ではない、何かしらの具体的な意図が込められていることが感じ取れたからだ。


---


その日の夜、島根県庁の執務室で、西郷は深夜まで資料に目を通していた。外は静かで、わずかに松江の夜景が見える。彼のデスクの上には「首都移転計画」と書かれた分厚い資料が山積みになっている。


「健一郎、少し休んだらどうだ?知事になってからほとんど寝てないじゃないか」


ドアの向こうから現れたのは、彼の大学時代からの親友であり、特別秘書を務める**田中誠**だった。彼は肩をすくめながら、長年の友に心配そうな視線を送る。


「まだまだやることがあるんだ。今、この計画を練り直しておかないと、政府や官僚たちに隙を見せることになる」


西郷は顔を上げずに言葉を返したが、誠は軽く溜息をついて彼の前に腰掛けた。


「でもさ、お前、本当にこの計画を成功させるつもりなのか?正直、周りは無理だって思ってる。俺だって…島根を首都にするなんて話、現実的に考えたらほぼ不可能に近いだろ?」


誠の言葉に一瞬沈黙が落ちる。しかし、西郷はゆっくりと顔を上げ、その鋭い眼差しで彼を見つめた。


「不可能なことは、俺もわかってる。でも、だからこそやるんだ。日本は変わらないといけない。東京に依存するだけじゃ、この国は未来を失う。島根がその鍵を握るんだ」


誠はその言葉を聞いて苦笑した。


「お前、本当に昔から変わらないな。いつも大胆で無茶なことを考えてる。でも、それが俺たちの健一郎だ。だったら、俺も最後まで付き合うさ」


西郷は軽く微笑み、手を差し出した。誠はその手をしっかりと握り返した。


---


その翌日から、西郷の「島根首都計画」は本格的に動き出した。首都機能移転に向けて、まずは島根のインフラ整備、観光業の振興、そして全国から人材を集めるための政策を次々と打ち出した。彼の大胆なビジョンは瞬く間に国内外で話題となり、支持者と反対者が二分する事態となった。


だが、誰もがまだ気づいていなかった。西郷の背後には、ある陰謀が潜んでいることに…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る