少女は覚悟を決める(3)(修正)
深緑の髪を持つ少女が、その淡黄色の瞳でブランを真っ直ぐに見つめている。震える唇がゆっくりと開き、彼女が発した最初の言葉は――。
「……本当にありがとうございました。そして……ごめんなさい」
少女は深々と頭を下げ、その視線を床に落とす。その感謝に続く謝罪の言葉には、悔しさや情けなさ、そしてこれまで自分がブランにしてしまったことへの後悔――あらゆる感情が込められていた。
ブランはそんな彼女の姿を静かに見守る。彼女が抱えているものの大きさを感じ取りながら、穏やかに口を開いた。
「……謝ることなんてないよ」
その声には怒りも責めもなく、ただ彼女を安心させるような、そんな優しさだけが込められていた。
「俺たちは、あの時を一緒に乗り越えた。それがすべてだろう?」
ブランの言葉に、ライラの肩の力が少し抜けたのが分かる。
「……でも……それでも、あなたが危険に巻き込まれることなんてなかったはずです」
ライラは視線を落としたまま、震える声で言葉を続ける。
「セラフィさんから聞きました。あなたがダンジョンに潜る理由――妹さんのためだって。だったら、なおさら……なおさら危険なことをする必要なんて……」
彼女の声は次第に小さくなる。その悔しげな言葉には、自分の無力さを噛み締める気持ちが滲み出ていた。だが、ブランは首を軽く振り、彼女の言葉を遮った。
「それでも今、俺と君はこうして生きている。それに、君たちを助けたのは、俺が自分で選んだこと。俺の意思でしたことだ」
彼の言葉には揺るぎない決意が込められていた。その力強い声に、ライラはハッと顔を上げる。
「だから、感謝されるのは構わないけど――謝る必要なんてない」
ブランの優しさに満ちた言葉を聞き、ライラの瞳には安堵の色が浮かんだ。それでも、彼女の心の中には一つだけ拭い去れない疑問があった。
「……でも、どうしてそこまで……?」
彼の真意を知りたかった。なぜ命を懸けてまで自分たちを救おうとしたのか――その理由を。
ブランはしばらく黙っていたが、やがてふっと小さく笑みを浮かべた。その表情はどこか寂しげで、けれど強い意志を感じさせるものだった。
「約束を果たすため。そのための一歩を踏み出すために」
少年は穏やかながらも力強い声でそう答える。その言葉には、確固たる決意が込められている。
「俺が世界に拒まれた存在なのは知ってるだろ?白の魔力色素を宿した俺は、
その言葉は――。
誰もが簡単に辿り着ける答えではなかった。むしろ、それは普通の人間なら決して選ばないような、険しく、痛みと苦しみに満ちた道だった。だが、それでも少年の目には揺るぎない信念が宿り、その言葉一つ一つに、確固たる覚悟が滲んでいた。
その姿に、ライラは胸の奥が激しく揺さぶられるのを感じた。
ただの言葉に過ぎないはずなのに、その言葉の背後にある想いと、彼が歩んできたであろう過酷な道のりを思い描くたび、彼女の心は震え、熱を帯びていく。
――この少年は、どれだけの痛みを抱えながらも、それでも前を向き続けてきたのだろう。
それは、これまで多くの魔法使いを見てきたライラにとっても、見たことのない純粋な強さだった。苦悩を乗り越え、弱さを飲み込み、それでも進む――そんな不屈の意志に、彼女は自然と心を掴まれていた。
「……貴方は本当に強いんですね」
ライラは小さな声でそう呟く。
胸の奥で、言葉にならない想いが渦巻く。ただそれでも、一つだけ確かなことがあった。彼女は、目の前の少年に追いつきたいと思ったのだ。彼の言葉が持つ重みと覚悟が、心に深く響いたから。そして、その背負っているものの大きさを思うと、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
だからこそ――彼を支える存在になりたい。そんな思いが胸の内から湧き上がってきた。
「私の名前はもう知っていると思います。でも……改めて自己紹介をさせてください」
ライラはそう言いながら、杖を握りしめて一歩踏み出す。その瞳には決意と強い意志が宿っていた。
「私の名前はライラ・グレイシア。風魔法を操る
その言葉に込められた意志の強さに、ブランは驚きを覚えた。彼女の瞳には迷いはなく、確かな決意が宿っている。
そんな彼女を見て、ブランは少し戸惑いながらも静かに答えた。
「……ありがとう、グレイシアさん。でも――」
「でも、じゃないです」
ブランの言葉を遮るようにライラは強い口調で言った。その瞳は真剣で、一切の迷いがなかった。
「これは、私が決めたことなんです。あなたを支えたいと思った私の意志です」
その真っ直ぐな言葉に、ブランは言葉を失った。
「だから、私を信じてください。そして、もっと自分を信じてください。あなたはきっと――これまで出会った誰よりも強い人ですから」
その言葉には確かな力が込められている。
ライラの言葉に、ブランの中で長らく凝り固まっていた何かが少しずつ解きほぐされていくようだった。
「……ありがとう」
ブランが静かに礼を言う。
ライラは微笑んだ。しかし、その表情はすぐに不満げなものへと変わる。
「……それじゃあ私の名前、ちゃんと呼んでくれませんか?」
「えっ?」
「さっきの『グレイシアさん』って呼び方、禁止です。これからは『ライラ』って呼んでください。あと敬語も禁止です」
そんな突拍子もない言葉に、一瞬、目を見開く。
何を言い出すのかと戸惑ったが、次の瞬間には納得した。目の前に立つこの少女が、外見だけで判断できるような存在ではないことを、すでに理解していたからだ。
――この子は、頑固で真っ直ぐな心を持っている。
たとえ何を言おうとも、それを覆すことはできないだろう――そんな確信が、ブランの胸にはあった。
仕方がない。
そう思いながらも、ブランは自然と肩の力を抜き、苦笑を浮かべた。
「……本当に君は、しっかりしてるんだな。いや、しっかりしてるっていうより、頑固って言った方が正しいかもしれないけど」
彼の言葉に、少女の眉がピクリと動いたが、すぐに意地の悪そうな笑みを浮かべて返してくる。
「褒められてるのか、けなされてるのか、どっちなんですか、それ?」
「どっちもだよ。君を止めようとしても無駄だってことだけは、よくわかった」
あきらめとも受け取れるようなその言葉には、どこか優しさが滲んでいた。ライラはその言葉を聞き、微かに口元を緩めると、まっすぐブランを見据えたまま一歩前に踏み出した。
「なら、私を止めるのはやめてくださいね」
堂々と言い放つ彼女の姿に、ブランはますます苦笑を深めるしかなかった。
「本当に、言い出したら聞かないんだから……わかったよ。君がそこまで言うなら、力を貸してもらう」
その返答を聞くや否や、ライラは満足げに頷き、力強く微笑む。その笑顔に触れた瞬間、ブランの胸の奥に小さな火が灯るような感覚が広がった。
――この少女となら、どんな困難でも越えられるかもしれない。
そんな思いが、ふと頭をよぎった。
「これからよろしく、ライラ」
その言葉を聞いて、ライラは満足そうに頷いた。
「それでいいんです!」
彼女の嬉しそうな表情を見て、ブランも自然と笑みを浮かべる。その穏やかな空気が二人の間を満たしていた。
だが、その空気を断ち切るように「ごほんっ」と咳払いの音が響く。
「楽しそうね。でも、そろそろ本題に戻らないと」
セラフィが二人を見て苦笑していた。
その声に、二人ははっとして表情を引き締める。
ライラの言葉と共に、場の空気は再び真剣なものへと戻っていく。
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まず初めに、私の拙い文章を読んでくださり、ありがとうございます。
ゆっくりと書いていく予定です。
時々修正加えていくと思います。
誤字脱字があれば教えてください。
白が一番好きな色。
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