少女は覚悟を決める(2)(修正)

目の前に広がるこの光景。それはきっと夢の中の幻だ。しかし、そう理解していても、この光景はあまりにも生々しく、現実そのもののような重みを持っていた。


赤子を見つめるのは二人の人物。一人は、麗しき容姿を持つ女性。そしてもう一人は、ローブを深くかぶり、その顔を完全に隠している。彼らの沈黙が、不思議なほど胸をざわつかせる。まるで何かを語りかけられているように、二人の視線が重くのしかかった。


『——この子に全てを託す覚悟を、ようやく決めたのか』


宮殿の大広間のような場所には、彼女たち以外の姿はいない。

顔を隠した人物の声は、深く響き渡る。


『ええ。ようやくね』


麗しき女性が静かに応じる。その声には迷いがなく、確かな決意が宿っていように感じる。


『残されたは、もう多くない。我々にできるのは、この子に全てを託すことだけだ』


ローブの人物の言葉が空気を重く染める中、女性は赤子に目を向けた。その瞳には確かな覚悟と、どこか悲しげな温かさが宿っている。


『そうね。でも、それで十分よ。だからこそ、私はこの子を選んだ……』


彼女が赤子の頭にそっと手を置く。その手には温もりと共に、託された使命の重さが伝わってくるようだった。


『『すべては、再び訪れる混沌の理を乗り越えるために――』』


二人の声が重なり、静かに空間に響き渡る。彼らの言葉が、未来を託された運命の子の心に深く刻み込まれていく。






「――きて」


誰かの声が、遠くから聞こえた気がした。


「――起きて」


その声は徐々に鮮明になり、現実へと引き戻す。


「起きて」


誰かの声によって意識が覚醒する。瞼がゆっくりと開かれ、ぼんやりとした視界が次第に色を取り戻す。世界が再び輪郭を持ち始め、ぼやけていた景色がはっきりと映りだしていく。


目の前には、一人の女性がいた。彼女はブランの手を握りしめ、涙ぐみながらこちらを見つめている。


「……セラフィさん?」


ブランは彼女の名を口にした。すると、女性は驚いたように一瞬目を見開き、すぐに勢いよく立ち上がった。


「ブラン君!目を覚ましたのね!」


歓喜に満ちた声が響く。セラフィ・ブラスデッド――ダンジョン管理を担うギルドに所属し、金色の髪と瞳を持つ彼女は、孤独なブランを気にかけてくれる数少ない存在だった。そんな彼女の瞳には、喜びと安心感に潤んでいた。


「……ここは?」


ブランが問いかけると、セラフィは微笑みながら答える。


「ここはギルドの医療室よ」


だが、その笑みの裏に潜む怒りに気づく間もなく、彼女の口調が一転する。


「心配したんだから!一体何を考えていたの!?緊急信号を見て急行したら、あなたがフロアⅢに降りたって聞いて……!理由はもう聞いたけど、それでも無茶をしたことには変わらないでしょう!?」


彼女の強い言葉に、ブランは一瞬戸惑った。セラフィの鋭い視線が彼を射抜く。


「……ごめんなさい。でも俺はあの時、やるべきだと思ったんです」


一度息を吐き、視線を伏せたブランは静かに語り出す。


「……世界に拒まれた魔法の子マギアス・ネガティオンである俺は、世界に忌まれた白き魔力を宿した、無能な存在です。妹を守ることも、今は遠い存在となった彼女クレアの背中を追うこともできなかった弱い自分を、いつも心の底から憎んできました」


セラフィはその言葉に表情を曇らせた。


「でも、俺は変わりたかった。過去の自分を塗り替えたかった。そのための行動が、どんなに愚かな行動だったとしても――」


彼女に目を向けたブランは、感謝と共に深く頭を下げる。


「だから、心配をかけてしまったことは謝ります。本当にごめんなさい」


長い沈黙が続いた。やがて、セラフィはため息をつき、優しく微笑んだ。


「気持ちは分かったわ。でも、もう少し自分を大切にしなさい。あなたには妹さんがいるんでしょう?悲しませないためにも、自分を傷つけるような無茶は控えて」


ブランはその言葉に静かに頷いた。その時、セラフィが振り返る。


「さて、次は彼女の番ね」


セラフィが背後を指す。深緑の髪が揺れ、淡黄色の瞳がこちらを真っ直ぐに見つめている。あの戦場で共に戦った少女――ライラが、静かに立っていた。


「起きるまでずっとそわそわしていたのよ。きっと、あなたに伝えたいことがあるんでしょう?」


ブランは驚いたように彼女を見つめた。ライラは恐る恐る近づいてきて、深く息を吸い込む。


「……ブランさん、あなたに話したいことがあります」


その言葉に、彼の胸の奥で何かが動いた。あの日、ライラの風が切り開いた戦場での記憶が蘇る――この少女が、自分の戦いをどう見ていたのかを聞く覚悟が、ブランの中で芽生えた。


彼女の言葉が紡がれるその瞬間から、新たな物語が静かに動き出す。

それを少年は、まだ知る由もない。




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まず初めに、私の拙い文章を読んでくださり、ありがとうございます。

ゆっくりと書いていく予定です。

時々修正加えていくと思います。

誤字脱字があれば教えてください。

白が一番好きな色。

































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