少女は覚悟を決める(1)(修正)

魔法――それは、少女にとってただの力ではない。

それは彼女の信念そのものを映し出し、幾度も自分自身を守り、また周囲に優位をもたらしてきた力の象徴。だが、魔法が支配するこの世界では、ただ優れた魔法の子だけが栄光を手にできる。頂点に君臨する魔法使いウィザード。その階梯の下には、大賢者アークメイジ賢者ハイメイジ、そして魔導士メイジ魔導戦士バトルメイジが位置し、それぞれが実力に応じた地位を奪い合う。そんな階層社会が彼女の生きる、『魔法の世界』そのものであった。


一方で、落ちこぼれと見なされた者にとって、この世界は残酷そのものだ。

才能や血統、そして世界に愛された魔法の子アルトゥス・マギアデスとしての宿命を持たなかった者は、容赦なくこの世界から切り捨てられる。努力で乗り越えられる壁は少なく、そこに辿り着けるのは天賦の才を持った者か、魔法そのものに選ばれた者だけ。


ライラは、その冷酷な現実を知っている。それでもなお、彼女は足掻き続けてきた。

だからこそ、養成学校の温室に留まることを良しとせず、命を刈り取るダンジョンという恐怖の場所に自ら足を踏み入れた。

「自分が一番努力している」と信じ、それが揺るぎない彼女の誇りだった――少なくとも、今までは。


だが、目の前に広がる現実が、彼女の信念を根本から揺さぶる。

魔法に否定された少年――世界に拒まれた魔法の子マギアス・ネガティオン

彼は剣一本だけを武器に、ライラたち仲間を守るため命を賭けて戦っている。その姿に、ライラはこれまで抱いてきた感情の薄さを痛感した。彼がどれだけの勇気と意志を持ち、何を背負って戦っているのかを直視したとき、胸が締め付けられる感覚に襲われた。


「……私もやらないと」

自然と、言葉が口をついて出た。


「……え?」


仲間たちは困惑する。逃げるべきだという思いが、全員の胸中にあったからだ。

だが、ライラの声には明確な決意が宿っている。


「シャーロンさん、ノーゼンさん、ユリーラさんを頼みます。彼に全てを押し付けて、尻尾を巻いて逃げるなんて、そんな情けないこと、私はできません」


彼女はそう言い残し、杖を握り締めて駆け出す――仲間たちが声を掛ける間もなく。





ブランの視界は霞み、全身に容赦ない痛みが襲う。

魔力を脚と腕、そして刀剣に巡らせ、ただ目の前の敵を斬る。それだけが、彼に許された行動だった。


「……くそっ!」


鋭い刃が魔物を次々に切り裂き、血飛沫が戦場を染める。だが、次から次へと湧き上がる魔物たちの猛攻に、限界は刻一刻と近づいていた。

レベルⅤに指定された魔物を相手に、どれだけ粘れるか。ブランの時間は、もはや砂時計の砂が尽きる寸前だ。


「……まだ……」

ぼやける意識の中で、彼はそれでも立ち上がろうとする。

だが、膝が一瞬折れる。その一瞬の隙を魔物は逃さない。


バキッ



何本かの骨が折れる。

その感覚が、音が耳に反芻する。

魔物の打撃で背中に走った激痛が視界を真っ暗に染める。

そんな状況ですら、ブランの心はあの男の仲間たちを逃すことだけを考えていた――そのとき。


「切り裂く風よ、刃となりて敵を貫け――!」


凛とした声が戦場に響く。


「……風の魔法?」


咆哮を上げて襲いかかろうとした魔物たちを、無数の風の刃が切り裂いていく。次々と血を撒き散らしながら倒れる魔物たち。

その魔法を放ったのは――ライラだった。


「どうして君がここに……」


ブランのかすれた声に、ライラは淡い笑みを浮かべながらも、真っ直ぐ前を見据えた。


「……伝えたいことがあったんです。私は今まで……ずっとあなたを助けず、ただ傍観していただけの人間でした」


そう言いながら、ライラは再び杖を振る。緑色の魔力の渦が周囲に広がり、さらに強力な風刃が魔物たちを貫いていく。


「でも、こんな酷い状況になってようやく気づきました。あなたがどれだけ努力を重ねているのかを。そして、私はずっと――その姿を見ていただけだったことに」


淡黄色の瞳に宿るのは、迷いのない強い意志。ライラの言葉は次第に力強さを増していく。


「だから、これからは違います。私はただの傍観者ではいられない。私も……誰かのために、自分の全てを懸けて戦いたいと思う」


彼女の瞳には、かつての弱さを一切感じなかった。

彼女の言葉に信念が宿っていた。

だからこそ、心からの感謝を込めて、ブランはうなずく。


「……ありがとう。君の力を借りれば、きっと乗り越えられる」


二人の意志が重なり、戦場の空気が変わる。

風の刃が魔物を切り裂き、白く輝くブランの刀剣が敵を次々に打ち倒していく。


絶望の渦巻くダンジョンの戦場で、二人の意志が共鳴する。その刃が、希望を照らす光となって――新たな物語の幕が上がった。

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まず初めに、私の拙い文章を読んでくださり、ありがとうございます。

ゆっくりと書いていく予定です。

時々修正加えていくと思います。

誤字脱字があれば教えてください。

白が一番好きな色。



























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