死へと誘う夢の場所(4)
腰に差された刀剣に宿る白き光が、絶望の中で静かに輝く。
少年は、抱きかかえた女性を慎重に地面へと降ろすと、視線を周りへと向けながら立ち上がった。
「……どうしてここに……あなたがいるの?」
その言葉を震えた声で発したのは、この中で最も絶望に染まっていた少女の声。彼女の視線は少年の腰に差された刀剣、その白く輝く刃へと向けられる。。
白き色彩の魔力
それは、魔法から拒絶され、世界から忌み嫌われた魔力の色。その色を持つ者は
そんな色彩を宿した少年——養成学校でも異端児として避けられているブラン・アルフテッドが今、目の前に現れた。
「……どうして、そんな魔力を持つあなたがここに……」
ライラの声には驚愕と困惑が混じっていた。
彼女の心の奥底に染み込まれた、白き色彩の魔力に対する偏見と拒絶が、無意識のうちにその言葉に反映されていた。
少年はライラの問いかけに、静かな瞳で応える。
「仲間を助けてくれって、懇願された」
目の前にいる少年はそう静かに言いながら、腰に差した白き刀剣をゆっくりと握りしめる。その落ち着いた態度とは裏腹に、彼の言葉が持つ重みは、ライラたちの胸に深く響く。彼女たちは瞬時に、唯一逃がすことが出来た男の姿が脳裏に浮かんだ。
「カルーゼさん……」
ライラは小さな声でそう呟く。いつもは頼りがいのないあの男が、目の前の少年に必死に助けを求めたことを理解した。
「異常と緊急があったことは、
忌み嫌われた少年が、ツールを使ってギルドに緊急の信号を送ってくれたことを知り、ライラたちの胸に一瞬だけ安心感が広がる。
しかし、彼女たちの心はすぐに、未だ変わらない絶望的な状況へと引き戻された。
ライラの視線は、再び周囲の荒廃した光景に戻る。岩の破片が散らばり、地面には無数のひび割れが走っている。目の前にいる周囲の魔物はなおも、獲物を狙うかのように獰猛な目でこちらを睨み続けている。
「でも……」
ライラは戸惑いながら、目の前に立つ白髪の少年に問いかける。彼女の目には、不安と疑念が入り混じっていた。この状況を打破する策が、無能のレッテルを貼られた少年にあるのか――いや、あるはずがない。ここはダンジョンのフロアⅢ、
「どうやって……?」
声を絞り出すようにライラは再び尋ねる。
目の前の少年は、白き光を宿す忌み嫌われた刀剣を握りしめている。養成学校では異端児とされ、軽んじられてきた彼が、今この絶望の淵で何かを変えることができるのか――その疑念は、ライラの胸に渦巻いて離れない。
そんな思考が脳裏を渦巻く中、少年は言葉を発する。
「君たちがこの女性を安全な場所に運んでいる間、俺が魔物を引き受ける」
ブランのその言葉に、ライラはさらに混乱した。
「無茶だよ!一人でそんなこと、どうやって――」
「無茶でも、今はそれしかない」
ブランの声には迷いがなく、冷静でありながらも何かを背負うような強い決意が込められている。
「頼まれたんだ、仲間を助けてくれって。」
その言葉を口にする瞬間、ブランの脳裏には、懇願してきた男の姿が浮かんだ。仲間を守るために必死に頼み込んできたあの男。自分を無力だと感じていた過去の記憶が甦り、胸の奥でくすぶっていた失望が疼く。
――あの頃の自分は、何もできなかった。
だが、今は違う。
過去の自分を乗り越えるために、そして二度と同じ失望を繰り返さないために、この瞬間、この場所で、壁を超えなければならないと、少年は覚悟を決めたのだから。
魔法とは、使い方によって遠距離でも近距離でも発揮できる万能の力。使い手がより高い領域、つまり
少年は瞼を閉じ、神経を研ぎ澄ませ、想像した。
『体内に宿る魔力を、脚へと集中させるイメージを』
『確かに巡る魔力の奔流が、身体を次第に熱くしていく感覚を』
少年がダンジョンに初めて足を踏み入れたのは、五年前のこと。まだ十歳の小さな身体で、少年は刀剣を握り、ダンジョンに挑戦し続けた。
そして今、少年は魔法の力を使わずにフロアⅡの魔物を討伐するまでに成長した。
その成長の過程で、少年は数々の困難と向き合い、多くの経験を積んできた。ダンジョンに潜む魔物たちとの戦いを重ね、孤独の中で数多の試練を乗り越えてきた。
だからこそ、少年の魔力はゆっくりと、しかし確実に、より濃く、鮮明なものへと進化していく。
彼の身体に巡る色彩の魔力、
その白の魔力は『純白の色』へと昇華する。
少年は剣を握り、力強く走り出した。
「……えっ?」
誰かの驚いた声が聞こえた。それも無理はない。
少年の速さは、生身の人間が出せる速さではなかったから。その閃光のごとき速さが、一体の魔物へと接近していく。
標的となったのは、ユリーラを殺そうとした一匹の
倒れたデスボルグに対して、ブランは素早く身体を旋回させ、その厚い筋肉で覆われた首へと白き刀剣を振りかざす。瞬く間に、デスボルグの首は地へと落ちていく。
少年は瞬時に次の獲物へと接近した。
それも、人間とは思えない身のこなしで。少年は魔物を次々と斬りつけていく。
その圧倒的な力を、その異端さを、ライラは仲間と共にユリーラを運びながら茫然と眺めていた。
魔法なくしてダンジョンに挑む者は、大馬鹿者である。
自ら死の世界へと赴こうとする者には、その言葉がぴったりだと、誰もが納得した。
そんな大馬鹿者が、目の前にいる。──『無能』と蔑まれていた少年。屈辱と絶望に満ちた人生を歩み、誰からも手を差し伸べられず、他者に笑われ続けた一人の人間が、死を拒み、抗っている。
自分たちは絶望へと誘われ、諦めたというのに、悲痛な人生を送ってきた少年が、手を差し伸べることのなかった魔導士のために、魔物へと立ち向かっている。
そんな姿を見て、少年を犠牲にして助かろうとしている魔導士たちは、何を思うのか。
忌み嫌われた白の魔力が彩る閃光を眺め、少女はその刀剣に込められた少年の意志と強さに気づく。
そして、魔導士である自分が今何をするべきか、ライラは考えた。
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まず初めに、私の拙い文章を読んでくださり、ありがとうございます。
ゆっくりと書いていく予定です。
時々修正加えていくと思います。
誤字脱字があれば教えてください。
白が一番好きな色。
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