死へと誘う夢の場所(5)(修正)

腰に差された刀剣から放たれる白の光。その光が暗闇と絶望を照らすように静かに輝いていた。ブランは腕の中で気を失っているユリーラをそっと地面へ横たえ、周囲を警戒しながら立ち上がる。


「……どうしてここに……あなたがいるの?」


震えた声で問いかけたのは、ライラだった。

その視線はブランの腰に差された刀剣――忌み嫌われた「白の魔力」を纏う刃に向けられている。


白き色彩の魔力。

世界で「無能」と見なされ、魔法の構築を拒絶された者に宿るといわれている魔力。

白の色彩を持つ者は、「世界から否定された魔法の子マギアス・ネガティオン」と呼ばれ、存在そのものが異端とされる。


そんな白き色彩を宿す少年、ブラン・アルフテッドが目の前にいた。

養成学校では異端児として孤立し、誰からも見下されてきた彼が、なぜこの絶望の淵に現れたのか――ライラは困惑しながら問いかける。


「……どうして、そんな魔力を持つあなたがここに……」


驚きと拒絶が混じった彼女の声に、ブランは静かに答えた。


「仲間を助けてくれって、懇願されたんだ」


短い言葉。だが、その声には確かな決意が込められている。

ライラたちは少年の言葉から、唯一このスタンピードの波から脱出することの出来た男――カルーゼの姿を思い浮かべた。


「カルーゼさん……」


小さく呟いたライラの脳裏に、目の前の少年に必死に助けを求めた男の姿がよみがえる。あの頼りない男が、自分たちを助けるためにこの少年を連れてきた――その事実が彼女の胸を震わせる。


「異常事態は魔道具ツールでギルドに知らせてある。救援が来るまでは、俺が魔物を引き受ける」


そう語るブランの声は冷静で、状況を正確に見極めていた。

だが、ライラの不安は消えない。彼女の目には、魔力を創造できない無価値の魔力色素が映る。無能な色彩をその身に宿し、見下されてきた彼に、この状況を打破する力があるとは思えなかった。


「どうやって……?」


声を絞り出すようにライラは問う。


「君たちがこの女性を安全な場所に運んでいる間、俺が魔物を引き受ける」


短い言葉の中に込められた覚悟を聞き、ライラはさらに混乱する。


「無茶だよ! 一人でそんなこと、どうやって――」


「無茶でも、今はそれしかない」


ブランの言葉は力強く、揺るぎなかった。

その背中には、過去に何もできなかった自分への苛立ちと、二度と同じ後悔を繰り返さないという決意が刻まれている。


「頼まれたんだ。仲間を助けてくれって。それを引き受けたのは俺の意思だ」


ブランの瞳には、必死に願いを託したカルーゼの姿が浮かんでいた。そして同時に、あの日――何もできなかった自分がよみがえる。


白き閃光の一閃。

ブランは静かに瞼を閉じ、体内を巡る白き魔力を意識した。

それは「創造する力」ではない。だが、今の彼には十分だった。


「体内に巡る魔力を脚に……。イメージは確かに――」


過去の試練が彼に教えた技術、魔力を最大限に引き出す集中力が、今の自分を支えていることを彼は理解している。



白刃を握りしめ、駆け出す。


「……えっ?」


誰かが驚いた声を漏らす。それもそのはずだ。

ブランの速さは、人間が出せるものではなかったから。


閃光のごとき速度で、彼は一体のデスボルグ牛鬼へと接近する。

巨大な棍棒を振り下ろそうとするその動きを見極め、ブランはその隙間を潜り抜ける。


「――ッ!」


白刃が一閃。デスボルグの足を一刀両断する。

巨大な魔物が崩れ落ちると、ブランは瞬時に身体を旋回させ、厚い筋肉で覆われた首へと刃を振り下ろした。


次の瞬間、デスボルグの首は地に落ち、その巨体は完全に動きを止めた。




その光景を見て、ライラは動けなくなった。

魔法なしでダンジョンに挑む者――それは大馬鹿者だと誰もが思うことだ。

『魔法』という力がなければ、人間は唯の弱き生物に過ぎないのだから。

だが、その「大馬鹿者」がダンジョンという魔境の中で、目の前で命を懸けて戦っている。



彼の動きは、驚くほど洗練されていた。

一つ一つの剣技は淀みなく、身のこなしには一切の無駄がない。


だが――その光景を目の当たりにした者が、誰もが抱くであろう「才能」という言葉は、この少年には当てはまらなかった。


目の前で繰り広げられるその動きは、天賦の才から生まれたものではない。

それは彼がこの死地――ダンジョンという極限の世界の中で、数え切れないほどの死闘を繰り返しながら、一つ一つ積み上げた努力の結晶だった。


刃を握る指の感覚、魔物のわずかな動きを見極める目、そして極限の恐怖の中でも冷静さを保つ心――どれも、彼がただ生き延びるために磨き上げてきた技術の結晶。

そのすべてが、今の彼の剣技に宿っている。


ライラは胸の奥が熱くなるのを感じた。

『力』をもつ自分が絶望に飲まれた中で、その『力』を持たない少年が白刃を振るい、抗っていたから。


「……こんな戦い方が……あるなんて……」


彼女の瞳には、彼をただの異端児と侮っていた自分の姿が映る。

そして、彼が命を懸けて繋ごうとしている「仲間」という言葉の意味を、初めて本当の意味で理解した気がした。


ライラは決意を固める。

その視線には確かな光が宿っていた。


「……私たちも、戦えることをしなくちゃ」


彼女は仲間たちに呼びかけ、ユリーラを安全な場所へと運ぶ準備を急いだ。

ブランの白き光が闇を裂く中で、魔導士たちはそれぞれの意思を持ち始める。





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まず初めに、私の拙い文章を読んでくださり、ありがとうございます。

ゆっくりと書いていく予定です。

時々修正加えていくと思います。

誤字脱字があれば教えてください。

白が一番好きな色。




























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