死へと誘う夢の場所(3)(修正)


数多の人間を死へと誘った夢の場所――それがダンジョンである。

そんな危険な場所で、両足が鎖に縛られたかのように硬直した。


目の前には、右腕を失い、血まみれの姿で地面に倒れる男。その体は震え、絶望と恐怖に満ちた瞳が、かすかに彼を見上げていた。


「助け……て、くれ……!」


弱々しい声が耳に届くたび、胸の奥が鋭く締め付けられる。


助けるべきか、それとも自分の身を優先するべきか――二つの選択肢がブランの中で激しく衝突する。


ここはダンジョン。感情に流されることが即座に死を意味する場所。

助けを求める声に応えた瞬間、自らも死の淵へと引き込まれる危険性がある。それは、この場所に挑む者たち全てに課せられた冷酷な掟。


そして――お前がいるべき場所じゃないと脳が警告する。


それはきっと、ヴィオレの顔が頭に浮かんだからだ。

自分を待つ少女がいる。病を治し、笑顔を取り戻すその日までは、何としても生き抜かなければならない。


だから、ここで見捨てることは間違いではない――そう自分に言い聞かせ、震える手で男の肩に触れた。


「……すまない」


冷たく響くその一言は、決意を確かめるためのもの。

だが――


「お願いだ……助けてくれ、仲間を……彼女たちを!」


男の必死の声が、ブランの足を止めた。


仲間を救うために懇願する声――それが、自分自身と重なった。

それはブランの脳裏に、過去の記憶が浮かんだからだ。


クレアの悲しげな瞳。あの時、自分は何もできない、ただ無力な少年だった。彼女を引き止めるどころか、自分の思いを伝えることすらできなかったあの時の自分の姿が脳裏に過ぎる。

そしてその後悔が、今も胸の奥で燻り続けている。


目の前の男を見捨てれば――また同じ後悔を繰り返すのではないか?



震える拳を握りしめたまま、ブランは自分に問いかけた。

そんな過去の後悔に囚われ続けるブランの頭の中で彼女の声が――クレアの声が響く。


『いつまでも、待ってる』


彼女と最後に交わしたウィザードの誓い。

それが頭に反芻する。


過去の記憶、胸に残る苦い感情、そして目の前の男の絶望。

それら全てが、彼の中で一つの決意へと変わっていく。


「……くそっ!」


苛立ちと恐怖を込めた震えた声と共に、ブランは男を見据えた。


「どこに行けばいい? どこに行けばお前の仲間を助けられる?」


その言葉に、男の顔にはわずかな希望の光が宿る。

彼は荒い息をつきながらも答えた。


「……フロアⅢに……この下で、仲間がまだ戦っている……大量発生スタンピードだ……魔物が一斉に湧き出して、仲間たちが囲まれているんだ……!」


――フロアⅢ。


その言葉を聞いた瞬間、ブランは躊躇を感じた。

彼の身では許されていない領域。それほど危険な場所だ。


だが、思考に浸る間もなく、男の意識が薄れていくのを目にする。ブランは急いでギルドへの緊急信号を送る光玉を取り出し、地面に叩きつけた。光が弾け、ギルドへと知らせが届く。


ブランは男を安全な場所に運び、一時的に避難させた。そして、深く息を吸い込むと、フロアⅢへ向かう。奥へと足を運ぶたびに、ダンジョンの空気はますます重くなっていく。ブランの心臓も比例するかのように激しく鼓動し、彼の足は確実に、そして早く前へと進んでいった。


少年の足が止まる。

視界に入った目の前の階段——それがフロアⅢへと降りるための道であることが、その雰囲気の変わりようから確信する。

音が聞こえる。怒号、衝突音、そして魔物たちの咆哮が交じり合い、耳をつんざく。


その先からは、生命の悲鳴とも言える叫びが断続的に響いていた。


「……こんな形でフロアⅢに来ることになるなんてな」


ブランは小さく笑った。自分でも分からない感情――恐怖か、それとも緊張か。だが、その足は確かに前へと進んでいる。


刀の鞘に手をかけ、体内に宿る白き魔力を流し込む。

刃が淡く輝き始めた。


少年は深呼吸をし、体内に宿る魔力を集中させた。


そして一歩、また一歩と階段を下る。

その一歩一歩には、少年の揺るぎない決意が込められている。



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まず初めに、私の拙い文章を読んでくださり、ありがとうございます。

ゆっくりと書いていく予定です。

時々修正加えていくと思います。

誤字脱字があれば教えてください。

白が一番好きな色。

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