死へと誘う夢の場所(1)(修正)

「お帰りなさい、兄さん」


寝台の上からブランを見つめる少女は、か細い声でそう言葉を発する。

ブランの妹であるヴィオレ・アルフテッドは、病弱な体を抱えながら、いつも兄の帰りを待っていた。寝台の上から微笑むその顔はどこか儚げで、見る者の心を締めつける。


「ただいま、ヴィオレ。朝より少しは具合が良くなったか?」


ブランは彼女のもとへと歩み寄った。

彼の問いにヴィオレは笑みを浮かべて頷いたが、その笑顔には無理があるのが明らかだと分かってしまう。


「うん……今日は少しだけ、良いかも。それに、兄さんの顔を見られたから、もっと元気になれた気がする」


彼女の言葉に、ブランの胸が締めつけられる。

魔力過剰貯蓄症――ヴィオレの身体を蝕む病は、進行を抑える薬こそあるものの、完治する術はない。

それが、この世界での現実だった。


「そっか。それなら、少しでも楽になるよう、夕飯を作ってくるよ。だから今は横になってて」


ブランは優しい声でそう言い、そっと彼女の紫色の髪を撫でた。その髪の手触りは柔らかく、それだけで彼の心が少しだけ穏やかになる。ヴィオレはブランの言葉に応えるように微笑んだが、その微笑みはあまりにも儚く、消え入りそうだった。



「ありがとう、兄さん。……でも、ごめんね、いつも迷惑ばかりかけて」


「迷惑なんて思ったことないよ。俺がやりたくてやってることだ」


笑顔を浮かべてそう言い残すと、ブランはキッチンに向かい、食材を取り出し始める。そして、狭い部屋に調理の音が響き始めた。包丁のリズムや鍋から漂う香ばしい匂いが、ささやかだが確かな温もりを感じさせる。


ヴィオレは目を細め、その様子をじっと見守っていたが、ふと目を伏せた。

彼女の体調は明らかに悪化していた。それでも、兄に心配をかけたくない一心で、口に出さずに耐えていた。


「今日も……おいしそうだね」


かすかに震える声。それでも、ブランは振り返り、柔らかな笑みを浮かべる。


「今日も元気が出る料理を作ったからさ。楽しみにしててよ」


調理を終えたブランは、湯気の立つ料理をお盆に載せて彼女のもとへ運んだ。

薬を忍ばせたスープに、シンプルだが滋養のあるメインディッシュ。

目の前に置かれた料理を見たヴィオレは、嬉しそうにスプーンを手に取った。


「おいしい……本当に、おいしいよ」


一口運んだ彼女の表情が少しだけ緩む。それを見て、ブランもまた心の中で小さく息を吐いた。


夜も更け、食事を終えた後の静かな時間。

ブランは、ヴィオレの身体を優しく拭きながら、彼女の細い肩や背中に触れるたび、無力さが胸を押しつけてくるのを感じていた。

けれど、この時間だけは彼にとっても大切なひとときだった。


「痛くないか?」


ブランの問いに、ヴィオレは微笑みながら小さく頷いた。


そして次は、ブランが学校で学んできたことを彼女に教える時間。

ヴィオレの興味を満たすために、彼は簡単で分かりやすいノートを作り、それを見せながら優しく語りかけた。

ヴィオレの瞳に灯るわずかな輝きを見るたび、ブランの心にも安らぎが広がる。


「今日はここまで。続きはまた明日な」


彼女が眠気を覚え始める時間に合わせて、ブランはノートを閉じた。毛布を整え、ヴィオレの額にそっと手を置く。


「おやすみ、ヴィオレ。明日も元気に過ごせるように、しっかり休めよ」


ヴィオレは微笑みながら目を閉じた。その顔には、ほんの少しの安らぎが浮かんでいた。


部屋の外に出ると、夜の静寂がブランを包み込む。

彼は深く息を吸い込むと、自分の頬を力強く叩いた。


「……行くか」


その声には、確かな決意が込められていた。


少年の腰には一本の剣が帯刀されている。向かう先は、希望と絶望が交錯する危険な場所――死へと誘う夢の場所ダンジョン


夜空には無数の星が輝き、その光が彼の歩む道を淡く照らしていた。


ダンジョン――それは多くの者が挑み、多くの者が帰らぬ場所。

だが、そこに潜む宝や希少な資源は、彼にとってヴィオレを救う手がかりになるかもしれない。


一歩、また一歩と歩みを進めるたびに、ブランの心は決意で満ちていく。


「俺がやらなきゃ、救えないんだから」


その呟きは夜の闇に溶け、静かに消えていく。


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まず初めに、私の拙い文章を読んでくださり、ありがとうございます。

ゆっくりと書いていく予定です。

時々修正加えていくと思います。

誤字脱字があれば教えてください。

白が一番好きな色。






























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