黄色の少女(1)(修正)

教室の中で聞こえていた教授の声が、どこか遠くに感じられる。


世界に愛された魔法の子アルトゥス・マギアデス


――その言葉がブランの記憶を鮮やかに呼び覚ます。


今ではもう遠い存在となってしまった彼女。

かつてはいつも隣にいて、互いに笑い合っていた存在。

その記憶が、次々とブランの脳裏に浮かび上がっていく。


クレア・ウィル・ヴァルラーク。

雷霆の剣士ヨウィスアルマ』の称号を持つ名門ヴァルラーク家の令嬢であり、黄色の魔法使いマギアスジョーヌ』に最も近い存在と称される少女。



その出会いは、丘の上に広がる草原――ウェストラムの都を一望できる秘密の場所でのこと。

ブランが初めてその草原に足を踏み入れたのは、孤独を紛らわすためだった。妹のヴィオレに寄り添う日々の中で、彼は他の子供たちと遊ぶ時間を持つことができず、一人で過ごすことに慣れていた。


草原は、そんな彼の隠れ家となり、妹のヴィオレにも幸せな時間をもたらす場所へと変わっていく。


魔力過剰貯蓄症――ヴィオレを蝕む病の名。体内に過剰な魔力を抱え続けることで、肉体が徐々に壊れていく致命的な病。彼女は孤児院から外に出られる日が次第に減り、やがて完全に動けなくなった。


それでも、月に一度だけ、体調が良い日が訪れる。

そんな日は決まって、ブランが彼女を背負い、その草原に連れて行った。咲き誇る花々がヴィオレを笑顔にする。それを見ることが、ブランにとって何よりの幸せだった。


だが、ヴィオレが完全に外へ出られなくなった頃、ブランはその笑顔を取り戻すため、草原へ通い続けた。

彼女に花を届けるために。


そして、その日もいつものように花を探していたあの時。

背後からの声に、彼は驚きで心臓が跳ね上がる。


「そこで何をしてるの?」


普段誰も来ないはずの草原。この場所を知るのはヴィオレだけだった。深い森を抜けなければ辿り着けない場所に、他の人間がいるはずがない。


――もしかして、幽霊かもしれない。


恐怖に駆られたブランは、ゆっくりと後ろを振り返る。


ひと際強い風が吹き、草原に咲き誇る花々が揺れる中、目に入ったのは――


黄金に輝く長髪。太陽を映したような美しい瞳。


風を受けて立つ少女は、ブランと同じくらいの年齢だろうか。どこか荘厳な雰囲気を漂わせている。


「こんな場所、知ってる人がいるなんて思わなかった」


そう言って微笑む彼女の顔は、信じられないほど整っていた。


その瞬間、ブランの心を支配したのは一つ感情だけ――


綺麗


その言葉だけがブランの脳裏に過ぎる。


これが、ブランとクレアの出会い。

丘の上に広がる草原で交わした最初の言葉が、二人の物語の始まりだった。







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まず初めに、私の拙い文章を読んでくださり、ありがとうございます。

ゆっくりと書いていく予定です。

時々修正加えていくと思います。

誤字脱字があれば教えてください。

白が一番好きな色。

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