【短編】後輩は甘えたいし構われたい
Sky City
第1話 後輩は甘えたいし構われたい
文芸部の一室で俺たちは暇を持て余していた。
「先輩、暇です」
「俺も暇だ」
ふわっふわな髪を揺らしながら持ってきた本をピラピラ〜と見せつけてくる。
「私、持ってきた本読み終わっちゃいましたよ」
「奇遇だな、俺もだ」
「ないか面白いことしてください」
「無茶ぶりだ。できるわけないだろ」
「これだから先輩はモテないんですよ。私みたいな美少女がかまってあげてるんです。さぁ早く可及的速やかにこの退屈をどうにかしてください」
「無茶を言うな無茶を」
膝の上に頭を乗せた後輩が大きくため息をついた。
こうゆうだる絡みは大体クラスとか家絡みで嫌なことがあった時のサインだ。何があったのか聞きたい気持ちもあったが、思い出させるのも気が引けた。後輩の頭が撫でやすい位置にあったため優しく梳くように頭を撫でた。
「何勝手に撫でてるんです?」
「ちょうどいい位置にあるのが悪い」
「ま、悪い気はしませんね」
片手でスマホを持ち撫でられる後輩を写真に収めた。
お写真は許されました。やったね☆
気分屋の猫みたいで可愛いな。心地よさそうに撫でられる後輩にペットのような感覚を覚える。
「猫みたいでいいな」
「こんな美少女をペットにするんですか。先輩、罪ですねぇ~」
「じゃあせめて否定はしな?いいのか、俺のペットで?」
「別に、先輩が定期的にかまってくれるならそれでいいです~」
「いいのかよ。バレたらスクープとかスキャンダルだよ?」
「バレたらですけどね」
こんな後輩だが学年で一二を争うレベルで可愛いらしい。俺もそれを知った時は爆笑したっけな。
なので、そんな彼女がこの冴えないオタクのペットなど火種にしかならんのですわ。
「ま、それもそうだな。どうせ廃部寸前の部活の部室だし、誰かが来るってことのほうが珍しい」
「おら、てぇ~止まってんぞ〜動かせ〜」
「へいへい」
スマホのカメラの録画機能をONにして丁度よく後輩が映る場所にスマホをセットして再度手を動かし頭を撫でる。
盗撮?バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。それに写真は許してくれましたし............という言い訳だけ言っとこ。
「猫がして喜ぶこと試していいか?」
「どうぞどうぞ、今はリラックス中ですのでどうぞ好きにしてください」
俺は考えることをやめたぜ、みたいな決め顔と共に後輩がそう告げた。
撫でる手を止め首の近くを撫でてみる。するとゴロゴロゴロゴロとのどを鳴らしていた。
いや、猫か!?と内心で突っ込みを入れながら首元を撫でる。さすがにお腹とかまで触ったらセクハラになるからさすがにやめとくか。
「お前、ブラシとか持ってたりする?」
「ありますよ。カバン開けて、すぐ見えるとこに入ってます」
「退く気はないんだな」
「ありません。動くの面倒なんで」
「退け退け。ちゃんとかまってやるから」
「しょうがないですねぇ~」
はぁ〜やれやれと後輩が立ち上がり俺の上から退く。俺は後輩のカバンを開けてブラシを取り、ソファーへと移動して腰を掛けた。
「こっち来て座れ」
「あ~い」
後輩がぽてぽてと歩いてソファーへと後ろを向いて床へと座った。何をされるかすでに知っての行動だろう。
「では、僭越ながら、美少女の髪の毛をブラッシングさせていただきます」
「毛量そこそこあるので頑張ってくださいね」
「うい。では、参ります」
撫でた時も思ったがフワフワしてるんだよなぁ~触り心地良すぎる。癖になりそう。
女にとって髪は命っていうもんなぁ~って俺ってもしかして今、こいつの命を握ってんの?え?コワッ!天国と地獄のダブルパンチじゃん。
やるにしてもたまにでいいかなぁ~
「おぉ~人にブラッシングしてもらいの気持ち良いですね。癖になりそうなので、定期的にヨロです」
「あ、今後ともやらせるのね」
「当たり前です。それと、乙女の髪は命なんですから、丁寧かつ大事に扱ってください」
「もともと気を付けてるので大丈夫です」
それからしばらくブラッシングをし、気づけば30分以上時間がたっていた。貴重体験だった。だが、ここで一つ、気になることがあった。
「いっつもこんなに時間かけてブラッシングすんの?」
「いえ、いつもはもっと雑ですよ。適当というわけにもいきませんけど、髪が痛まない程度にブラッシングしてます。」
立ち上がって俺へぐでぇ~と溶けるように寄りかかろうとする後輩を避けるように横へと移動し、ソファーへと体を預けた。
「避けられました」
「........................構って欲しい猫かお主は」
「膝をもらうまでです」
俺にくっつかないという選択肢は内容です。役得だけど、心臓と理性にダイレクトアタックなので。へへっ
「じゃあせめてその前にスマホ取って」
「しょうがないですねぇ~」
後輩にスマホを取ってもらうタイミングで自分が録画をしていたことを思い出す。
やべぇ。録画してたの忘れてた。
「先輩先輩、なんか録画されてますよ?」
「操作ミスかも、教えてくれてサンキュ」
気づいてなくてよかった~バレてたら何を要求されるかわかったもんじゃない。
こちらをじとぉ~とみてくる後輩が確信を突いた。
「先輩、もしかしなくても私のこと撮ってました?」
「と、撮ってないぞ。やだなぁ~疑うのは良くないぞ」
「いえ、思い返せばいろいろと恥ずかしいことをしていたなと。これで物的証拠が残ってしまえば私が先輩に甘えたという事実が残ってしまうので………」
少し照れたようにつぶやく後輩を前に俺は事実を告げるか告げないか、その狭間で葛藤している。悩んでいる間に、スマホを確認され撮影していた映像が流れ始める。
「いや、ほんと、出来心で。かわいかったからつい………」
「あ」
「あ?」
「ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
顔を真っ赤した後輩の絶叫が部室に響いた。動画には後輩の心地よさそうに撫でられ続ける姿やブラッシングされる姿がありありと映っていたからである。
その日、後輩は俺の膝に顔を埋めて、口をきいてくれなかった。口を開いても「ばか」と返ってくるだけだった。アイスでも釣れなかったので相当恥ずかしかったのだろう。
余談にはなるが、動画はかろうじて死守させていただいた。だって可愛いし。しょうがないね。
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