【詩】声をなくしたお姫様の話

声をなくしたお姫様。

お抱え薬師が問うてみた。

「姫のお声は何故消えた?」

姫は黙っているばかり。


声をなくしたお姫様。

老いた爺やが問うてみた。

「姫のお声は何故消えた?」

姫は黙っているばかり。


街には姫の噂が満ちて。

民は口々騒ぎ立てる。

姫のお声は魔女の呪い。

姫のお声は祖先のお告げ。

姫のお声は

姫のお声は

姫のお声は


困った宰相お触れを出して

「姫のお声を取り戻したなら、

 姫の婿に迎えよう」


お城に続く長い列

世界中から男が集い

吟遊詩人にならず者、

気高い騎士やら妻あるものまで。


しかし姫のお声は戻らぬまま

姫は黙っているばかり。


ある日、幼い子供が姫に問う。

「姫様お声はどうしたの?」

姫は子供をじいと見て

にこりと微笑みこう言った。


「私の声はここにある。

 誰も聴かぬがここにある。

 父が見罷り母が去り、

 私に語るは一人とて。

 故に『姫のお声』は失われ。

 しかし私の声はここにある。

 誰もそれを聴かぬだけ」


幼い子供は涙して

母御の影に駆け隠れた。

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