第3話 ~蒼澄、魔法覚えるってよ~
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「どうした翔!このままじゃゴブリンすら倒せないぞ!」
「ん、くぅ……っはぁっキツイっ!」
「ほらほらあと一回!」
「ぐぅうぁああ!」
「よ~しよく頑張った!」
「あ~死ぬかと思った」
あれから1カ月、俺はいつものように、父さんが買った山の一部で特訓を続けていた。
メニューはその日その日と父さんの気分で決めているようだったが、基本的には体力作りがメインの、走り込みや筋トレが主だった。
そのおかげか、最近は家から学校までを全力ダッシュしても、息切れ一つしなくなった。
身体もそれなりに引き締まって来て、多少の力仕事なら任せてくれという気持ちさえ湧いて来た今日この頃、今回の特訓は特別メニューがあると聞いて、ウキウキしながらいつもの山に来たが、来て早々いつもと同じようなメニューばかりこなしているだけだった。
そういえば特訓を始めて知ったことだが、探索者は一般人よりも身体の成長が早くて、探索者が1カ月鍛えるのは、一般人が1年鍛えたのと同等の成長が見込めるようだ。
「よし、そろそろ良いだろう」
そうして最初に言われたメニューをこなしていたら、父さんがそう言い始めたので、最初はもう終わりかと思っていたが、父さんが急に身体中に流れる魔力を足に集め始めた。
「翔!行くぞ!」
「えぇと……」
父さんがスタンディングスタートの形を取ると、次の瞬間には父さんが消えていた。
だが、足に魔力を集中させたということは……
「ここ!」
「良く避けた!」
俺は父さんの中段の回し蹴りを、半ば転びながらしゃがみ込み、その要領で横に飛び出し、2撃目のかかと落としを避ける。
かかと落としの衝撃で地面がえぐれるのは、何回見てもえげつないが、これも見慣れて来た頃である。
と言うのも、この突然のやり取りはこの特訓を始めてから5回目だからだ。
その突然になぜ俺が反応できたかというと、特訓を始める前に父さんから「これから1カ月ちょっと、お前は常に目に魔力を込めろ」と言われており、登校中も欠かさずに目に魔力を込めていた。
そして、相手の魔力の流れを捉えれば、大抵の動きは予測できるらしく、俺も父さんの魔力の流れを見て、足を使ったなにかだと察知して避けれたというわけだ。
これはダンジョンにいる魔物にも通用する術で、魔力を持っている生物は、大抵魔力の流れがその後の身体の動きに直結しているという、だが中にはそれをわかっていてわざと魔力の流れを均一に乱して、動きを予測させないことをしてくる魔物も存在しているらしい。
「さて、それじゃあ次のステップだ」
「お?遂に新たな技を教えてくれると言うのですか師匠」
「はっはっは、これまた調子の良いことを言っちゃって……そんなこと言ってもなにも出ないよ!ということで魔法を伝授してやろう」
「は~やっぱりかぁ……って魔法!?今魔法を伝授してやろうって言った?」
「ほぉ~ノリツッコミが上手くなったなぁ……そうだ、そう言ったのだよ。弟子!」
魔法とは全国のレディースエ~ンジェントルメンが大好きなあれだ。
別に固有能力だけが探索者の神髄ではない、魔力があれば、魔力を扱えれば固有能力がなくたってダンジョンで活躍できるのだ。
実際に魔力を用いた魔法で活躍している探索者は存在している。
それならばなぜ以前俺が絶望しかけたかというと、魔法には魔力操作と同じくかなりの集中力を要するため、それを戦闘中に出すには難しく、全体的な速度も遅いため魔法の実用性は主に防御系しかない、自然治癒が防御を極めても決定打に欠けて魔物を討伐できない可能性があったからだ。
一応攻撃系の魔法は存在するが、それは完全にロマンという一言で片づけられ蔑ろにされていた。
それでもロマン砲求めて攻撃魔法を極める探索者もいて、父さんもその1人である。
「それで師匠、いったいどんな魔法を教えてくれるのでしょうか?」
「それはな、初期魔法こそ最大火力!それこそ柔も制し剛も制す!その名もウォーターボールだっだっだっだ」
そうセルフエコーを効かせて言い放った魔法に俺は耳を疑った。
「うおおたあぼおる?」
俺はてっきりもっと凄い魔法を教えてくれるのかと思ったら、水魔法のしかも初期ウォーターボールであった。
それに柔も制し剛も制すってなんだ?ことわざもめちゃくちゃだし、どっちも制して最強って理論ですか?
俺は脳内で完全に呆れ返っていたが、魔法を極めた男児がそういうんだ、多分俺の創造とは違うウォータボールなのであろう。
「ここに浮かぶは1つのウォーターボール、これはとても加工しやすく、なんにでもなります。例えば槍、ウォーターボールを引き延ばせば瞬時に作ることが可能です」
父さんはウォーターボールに魔力を込めて、瞬時に水の槍に変えた。
「そして威力もこの通り」
木に向かって槍が刺すと、コンッという軽い音と共に刺さった。
「更にここに回転を加えます」
そういうと槍の先端が回転し始めて、ゴリゴリと木の削る音が聞こえて簡単に貫通した。
「そして槍から盾に、盾から剣へ次々と変化させれるのがウォータボール基水魔法の強みです。強度もそこそこで魔力を練り込めば練り込むほど硬く鋭くになります。どうでしょう?画面の前のあなたも水魔法が使いたくなりましたでしょう?」
父さんはまるでテレフォンショッピングの売り手のような口調で、空中に話しかけている。
もう役に入りっぱなしのようだが、そのおかげか水魔法の凄さがわかり、心の中の、いや全身の俺が使ってみたいと手のひら返しをしている。
「どうせ難しいんでしょう?」
「それなんですが奥様、今ならなんと私が教えて差し上げましょう!」
「え~!?ありがとうございますぅ」
「で、だがまず魔力というのは、大気中の魔力と自分の臓器が作る魔力の2種類があるんだ。そしてその2種類を合体させることによってその魔法の属性が決まるんだ」
「ということは、俺の魔力の属性が水じゃない可能性も」
「いや、翔のは水だろうな」
「え、わかるの?」
「あぁ、なんせ水属性の俺の子だからな」
「あ、遺伝するのねこれ」
「まぁ水属性じゃなくても一応使えるから……」
「なるほど、でもその場合なんかデメリットとかありそう」
「鋭いな、その場合大気中に微量に含む属性を引っ張って来るから、難易度高いし難しいしでデメリットが多いんだ」
「それでどうやって魔力を混ぜるの?」
「あ~まず翔、自分の中にある魔力を外に出せるか?」
「魔力操作は独学でやってるから一応」
そう言って俺は手のひらを上に向けたまま肩のあたりまで持って来て、魔力をその場に留まるように放出した。
「おぉ、上手く丸く保ってるじゃないか」
「なんか魔力操作だけ我ながら才能を感じるんだよね」
「なるほど、翔には特に得意分野がないと思っていたが、まさかこんなところで才能を発揮するとはな」
「待ってそれ息子に結構酷いこと言ってる自覚ある?」
「ある」
「あらそう、でこっからどうすればいいの?」
「最初はもう片方の手で、大気中の魔力を操作して合体させればいいさ」
「ん……こうして、こう!」
大気中の魔力を操りながら、右手の魔力の形を保つのはかなり難しく、油断するとすぐに自分の魔力が途切れてしまう。
それを上手く保ちながら、魔力と魔力を近づけて行き、それらが触れたが変化することなく、水と油のようにツルツルと滑ったりして合体しない。
「お……っと?」
「ここが難問なんだ。破裂しないように自分の魔力に穴を開けて、大気中の魔力を入れ込むんだ。そうすると無事属性魔力の誕生だ」
俺はいつになく集中して、自分の魔力に少しずつ穴を開けるが、そこから勢い良く漏れ出る魔力のせいで中々入れ込めずにいた。
「翔!魔力を放出しっぱなしにすると絶対に成功しないぞ!抑えろ」
「そう言われましても」
そうして試行錯誤していく内に段々とコツを掴んできて、魔力の放出を極限まで抑えて隙を見て入れ込んだ。
すると、魔力の質感が空気から水に変わった瞬間に、形が崩れて水魔法の素はパシャっと地面へ落ちていった。
「よし成功だ!やはり魔力操作は上手いな」
「いやいやいや今の失敗でしょ」
「いや、まずあの段階にものの数十分で辿り着けたことが成功なんだよ。大抵は1週間程度かかるんだ」
その言葉を聞いて少し嬉しくなったが、目の前で力なく落ちていく水を見ていた俺は納得がいってなかった。
「ねぇ、属性魔力に変わった瞬間に操作できなくなったんだけどなんで?」
「それを今から説明するぞ。最初に魔力ってのは半実体であり、一般人の目には見えないが触れることや感じることができるのだが、2種類の魔力を混ぜるとそれは属性が生まれて完全に実体化する、つまり一般人でも見えるようになるんだ。しかしそうなるとそれに重みが発生するから、それに耐えきれなくなった魔力を属性魔力が突き破って落ちたようにみえるだけで、実際は操作ができなくなるわけじゃない。そしてここからが本番だ。簡単な話だが、属性魔力をまた魔力で包んでその形を保つという工程を挟まなければならない、そして包む時の魔力はどちらの魔力でも良いが、操りやすい自分の魔力の方が好ましいとされている」
「なるほど、じゃあやってみるよ」
そう言ったものの、手を使わずに魔力を操作できない俺は、その日何度やっても包むことはできなかった。
「よし、新たな課題も見つかったことだし、今回はこの辺りで終わりにするか」
「くっそー今日中には魔法使いたかったのに!」
「まぁそう焦るな、まぁこっからは手を使わずに魔力を操作する練習をしなきゃな、ということで自分のペットを作れ」
「ペット?」
「ペットというのは比喩で、実際は連れ歩く魔力だと思ってもらえればそれで良い」
父さんの話によると、登校中や特訓の課題をこなしている間も、ペットのように1つの魔力の塊を自分の周りに浮かせ続けるというものらしく、これから毎日その特訓をすることとなったのだった。
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