第4話 ~蒼澄、友達と遊び行くってよ~
あの修行のあと、父さんは仕事をするためにまた海外に行ってしまった。
本当はもう少し教えてほしいことや、聞きたいことなどがあったが、父さんは「基礎は全て教えたつもりだから、これからは自分で成長していくのが、探索者として稼げるほど強くなる一番の近道だ」と、珍しく良いことを言っていたので、日夜不確定なネットの情報を頼りに、自分を鍛えている。
そんな俺だが、やはり魔法は習得できずにいた。
ぶっちゃけ属性魔力まで持っていくのは簡単だが、そこからが難しい。
実際やってみないとこの難しさは理解できないだろうけど、大気中の魔力は自分自身の魔力ではないので、操作する時に少しの抵抗感が生まれる。
そのせいで、疑似的に魔力の手を作り出して魔力を掴むなどをしないといけなくなるのだが、それの操作が上手く安定しないのだ。
俺は以前魔力操作が上手いと自負していたが、それは基本中の基本だから簡単にできていただけであったと、その時気付かされたのであった。
「翔お前、最近ずっと元気ないよな」
「あ、あ?あぁ……そうだな」
「そうやってすぐ上の空になるしよ」
「すまん」
俺は今学校に来ていた。
やはり学生たるもの本分は勉強であり、よく学びよく遊ぶというのが未成年の仕事みたいなものだ。
だが、俺はそんなことほっぽりだして、今も魔力の操作に集中していた。
「別にただぼーっとしてるわけじゃないんだよ。ほら、俺探索者になったろ?」
「あぁ、最初聞いた時は事故に遭って頭でもぶつけたのかと思ったよ」
「まぁ、大半はそんな覚醒の仕方しないらしいからな、それに外見もほとんど変わっないしな」
探索者には多かれ少なかれ、どこか普通の人間とは違う部分が存在している。
例えば同じクラスメイトの
そうどこかしらからなにか生えているのが、探索者の特徴である。
なぜそうなってしまうのかは、現在もわかっていないのだが、それによって引き起こされるいじめなどがあるのは事実である。
実際来夢も小学生の時にいじめられていたみたいで、小学校を卒業したあと、ここ千葉県にある北沢中学に転校してきたのだという。
「だから、探索者になって魔力が見えるようになったわけよ」
「あ~、お前がぼーっとしてるように見えるのは、その魔力を見てるからってことか」
「そうそう、でまぁ特訓してるわけよ、将来探索者になりたいしよ」
「まぁ探索者に覚醒して、探索者しませんって人なんて中々いないらしいな」
「なぜかわかんないけど、やっぱり自分が活躍できるところに行くのが、世の常ってわけなのかな」
そんなこんなでグタグタ話していたら、授業のチャイムが鳴ったので、俺は自分の席に戻った。
「ねぇねぇ、さっき魔力がどうとか、探索者がどうとか言ってたけど、何放してたの?」
コイツは隣の席の
まぁ普通に良い奴だが、ただの友達ってだけでそこに恋愛感情はないかな、それにたまに話すってだけで、真奈のことはほとんど知らないから余計にそうなってしまう。
「あぁ、まぁいろいろ話したな」
「いろいろじゃわかんないでしょ?」
「探索者になってこうなったとか、かな?」
「じゃあ授業始めるぞ~教科書の140ページを開いてくれ!」
「そういえば翔くん探索者になったんだったね」
「まぁろくな能力もらえなかったけどね」
「そんなことないよ!自然治癒能力が上がるって、それっていつかは不死になったりするんじゃない?」
「んなバカな」
「でも能力って使えば使うほど――」
「そこ!うるさいぞー集中しろよ~。この授業の内容テストに出るからな!」
「は~い!すいませ~ん……でさ、能力って使えば使うほど強くなるんじゃないの?」
真奈が懲りずに小声でそう言ったのを聞いて気付く。
覚醒能力というのは、使えば使うだけ進化するものだと。
ということは馬鹿げているが、真奈の言う通り俺の自然治癒能力を使いまくれば、いずれは不死になったりするのではないか?
実際反射神経が上がる覚醒能力を持つ人が進化して、音速で動く魔物の首を正確に跳ね飛ばせるようになったという話を聞いたことがある。
「多分そうなるな、でもまぁ……うーん、まぁこの話はあとでな」
「わかった、また注意されたくないもんね」
今の話で少し自分の覚醒能力に期待を持てたが、そこで「待てよ」となった。
自然治癒を使いまくればって言ったが、それってつまりかなり痛い思いをしなければならないってことじゃないか?それに必ずしも不死になるとは限らないし、不死と言えども流石に身体全体を吹き飛ばされたり、欠損したりしたら自然治癒の範疇から飛び出してしまうのではないか?
いろいろ考えるもそれは想像の域から出ないため、これ以上は思考力の無駄だと考え、テストに出るという大切な授業を受けることにした。
!
そして放課後になり、
「やっぱ放課後といったらカラオケだよね~!」
「そ、そうか?」
「カラオケはなんか食べれるし涼しいし比較的安いしで、正直最高の溜まり場だからなぁ」
「ほーん、俺は初めてカラオケに行くがそんなに充実してる場所なのか」
「来夢くんてカラオケ行ったことないんだ」
「正確には1度小さい頃に連れて行ってもらったことがあるが、それっきりだな。今じゃあほとんど記憶が掠れてしまっている」
そして中学校から10分くらい離れたマネキンヌコに着いた。
「よ~しなに歌おっかな~」
「彰はもうなに歌うか決めてあるか?」
「もちろんよ!まずは――」
俺たちが各々カラオケで歌う曲を選んでいると、突然スマホに緊急速報が流れた。
「緊急魔物速報?」
真奈がスマホを見ながらそう呟くと、来夢が説明してくれた。
緊急魔物速報とは、ダンジョンの魔物が発生過多でオーバーフローしたときに流れる速報だそうで、今はここから近くのダンジョンで発生しているということだった。
「え、これ結構近くない?」
「ここにいたらマズいかもな」
「とにかくここから出よう」
「翔の言う通り、遠くへ逃げよう……今ならまだ魔物たちも混乱していると思うから、ここに辿り着くにしても猶予はあると思う」
ダンジョンのオーバーフローの経験者である来夢は、俺たちとは違い至って冷静にそう判断を下した。
そうして俺たちはマネキンヌコから出た。
既に店員は逃げていたので、お金は払えなかったがそんな悠長なことを言っている場合ではなかった。
でも、この時の俺はやっと特訓した成果を発揮できる場が来たぞ、としか思っておらずこの災害を甘く見ていた。
「ぐぁああ!」
「ひっ……た、助けて!」
「おかーさーん!おが――」
建物から出た時にはもう既に魔物たちが街に蔓延っていて、そこは阿鼻叫喚の地獄と化していた。
目の前で鬼のような姿をした魔物に、指でつまむように首を折られヒョイッと喰われた子供を見て、真奈は耐えきれずに思わず吐いてしまっているが「今はそんなことをしてる場合じゃない」と来夢に背負われて俺たちは今魔物たちから逃げていた。
「おい!これからどうする?このまま逃げ続けてていいのか?」
「とりあえず逃げるしかないだろ!」
「そうだね今は逃げるしかない、それに真奈さんだって限界だ」
「う、うぅ……ごめんなさいごめんなさい」
真奈はすっかりパニックになってしまって、虚ろな目でなにかに対して謝っていた。
対して俺らは実感の湧かないまま走り続けていた。
いや来夢からしたら普段潜っているダンジョンと変わりはないだろうけど、やっぱりあの数の魔物を見るのは初めてらしく、外面では冷静を装っているようだが、やはり不安そうな顔をしていた。
「グロロロロ……」
「あ、あぁ……」
「ギガントはマズい、みんな逆方向に!おい彰!逃げろ!」
曲がり角から現れた、ギガントという巨大な人型の生物を見た彰がその場で固まってしまった。
それは俺たちを見つけてさぞ嬉しかったのか、ニィっと口角を上げて目を細めた。
「くそっ、翔!真奈さんをよろしく!」
「お、おう」
「早く!」
「わかった!」
俺は来夢から気絶した真奈を受け取った。
来夢は彰を助けに行くために魔力を高めてその身に宿した。
そして大きく跳躍して、ギガントの目に拳を叩きこんだ。
「彰!今だ逃げろ!」
「くぅ……あぁあ!」
ギガントが後ろにのけぞった隙に、彰は転びそうになりながらもこちらへ逃げてきた。
「よ、よし早速だが真奈を頼む……」
「はぁ?」
「良いから」
俺は真奈を彰に渡し、特訓をしたように身体に魔力を均一に広げたあと、四肢に少し多めに魔力を溜めた。
「お、おい!もしかしてお前戦うのか?」
「あぁ、そこで待ってろよ!」
「あ、おい!」
俺がよろけたギガントに向かって跳躍しようとした瞬間、どうやら来夢の二度目のジャンプが見切られていたようで、そこに合わせての平手打ちで地面に叩き落とされたあと、力なく項垂れている来夢が頭から喰われた。
「う、うそだろ……来夢!」
俺はその一瞬のできごとで完全に魔力が乱れてしまい、そこを突かれてギガントに思い切り蹴られてしまった。
真奈と彰の後方へ吹っ飛び、アパートの塀を突き破って部屋の壁の瓦礫に埋もれてしまった。
その衝撃で彰の悲鳴を聞きながら、俺は意識を手放してしまったのであった。
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