第2話 ~蒼澄、別に異常ないってよ~

 俺が病院で目が覚めてから約1週間後、様子を見ての退院なのでめんどうくさい検査などはやらなかったが、入院中ある特殊な機関から連絡があった。

 そのため今日俺は、東京に来ていた。


 そしてそのある特殊な機関とは、皆さんご存じダンジョン探索者協会である。

 ダンジョン探索者協会は日本でも全国に存在しており、探索者の仕事紹介や覚醒をした者の検査などをする機関で、もちろん俺の住んでる街にもあったが、珍しい覚醒の仕方をした俺は東京の方に呼ばれていた。

 流石はダンジョンが初めて現れた場所に建てられた施設だ、設備なども十分に整っていて、ダンジョン街から雇われた専門家たちも働いているらしい。

 ちなみにダンジョン街とは、ダンジョンが現れたと同時に現れるようになった街で、簡単に説明するとダンジョンが敵対的な魔物たちの棲む場所、ダンジョン街は友好的な魔物や魔人、その街特有の人種が暮らすダンジョンである。


「では、検査を始めます」


 そういって声を掛けてくれたのはドワーフの女性であるが、背丈が異様に小さいとかはなく、俺たちくらいの背丈をしていた。

 何事もなく検査が始まり、順調に進んで行き特に異常などもなく40分後には終わっていた。


「翔さんの検査の結果を見る限り、特に異常な数値は確認できませんでした。なので伝えることは少ないですが、翔さんは探索者としての資格をまだ有していないので、もし探索者としての仕事をしたいとお考えなら、火曜日と木曜日、土曜日に毎週ある資格取得試験をしにここへ来てください。その試験では魔力の質や量、操作精度を図り、その結果によって翔さんが挑めるダンジョンのランクが決定します。なお、決定後にも更新ができます。それでは、お疲れさまでした」


 やはりダンジョンには、たとえ探索者として覚醒していても、その資格を持っていないと入れないのか。

 ダンジョンのことは先にネットで調べておいたので、魔力の質や量によって入れるダンジョンが違うらしいことは知っていた。

 ちなみにダンジョンのランク(DR)は、上からS・A・B・Cと4つの段階に分かれている。


 それはそうと俺が探索者として覚醒した能力は2つあって、1つは魔力が見えるようになりそれを扱えるようになったことと、普通の探索者より自然治癒力高いことくらいであった。

 全国男子の夢であるいきなり不思議な力が扱えるようになった!は達成したけど、もう1つのこれなんだよ……普通の探索者より自然治癒力が高い……普通そういうのって、力が増すとか知能が増すとかそういう択で埋まるはずですよね!?自然治癒力ってなんすか。

 しかもこれ任意で治癒する回復魔法のようなものではなく、完全に身体依存のものであり、怪我したからといって自分の意思で瞬時にそれを治せるとか、そういう能力ではないそうだ。

 あくまで自然治癒力、傷が癒えたり骨折した骨が治るスピードが速いだけ、それと他の探索者より身体の耐久力が上がったくらいらしい、まぁそれだけでも探索者じゃない人からしたら人間離れしたっていうのかな?よくわかんないけど。

 少し自分の普通さを恨みながらその建物から出ると、何やら人だかりができていた。


「あぁ、そこの君!もしかして最近探索者になったのかな?」


「え、まぁまだ資格も持ってない新人ですけど、なんでわかったんですか?」


「魔力がだだ漏れだからね、それ放置すると疲れやすくなったりするから、早めに魔力を完全に操作できるようになった方が良いよ」


「へぇ~教えてくれてありがとうございます」


「ところで君!僕の作ったギルドに入らないかい?」


 いきなり話し掛けて来てなんだと思ったがそういうことか、確かこの協会の前はダンジョンの解明発達のため、午後からギルド勧誘とかの行為が黙認されてるんだっけっか?

 確かにギルドにはいずれ入ってみたいなとは思っていたが、まだ自らの能力もよく解ってない段階で入る気はなかったし、絶妙に胡散臭い雰囲気あるんだよなぁこの人。


「いや~そこら辺あまり考えてなくて、まだそういうのに入る予定はないですかね」


「そうか~でもまぁ名刺は渡しておくから、もし入りたくなったらここに書いてある電話番号に掛けてね!」


 強引に名刺を渡され戸惑っていると、男は次の標的を見つけたようでそっちに走って行ってしまった。

 それで終わったかと思ったら、1人また1人勧誘してくる人が現れて、帰りに使う駅に中々辿り着けなかった。

 そうして駅に着く頃には、名刺をたくさん抱えたおかしな青年が爆誕していたが、どこか気分は良かった。


 !


「特に特別なことが起きないのはお兄ちゃんらしいや」


 家に帰り検査結果を報告すると、妹が絶妙に傷つくことを言ってきたので、入院している間に特訓した魔力操作で、妹に魔力を突進させ小突いてやった。


「うわ!なに?今なにかぶつかって来たんだけど!」


 一通り妹の反応を見て楽しんだあと、魔力操作に疲れたのでもう勘弁してやった。


 普通探索者でない人に魔力は見えないが、空気のように感じ取ることはできる。

 そして俺たち探索者は目に魔力を通すことによって、宙に漂う魔力が見えるようになる。

 それができないと魔力の操作ができないというネットの書き込みを見て、ダンチューバ―(ヨウチューバ―の探索者版)の動画を見て必死に特訓した結果、俺も習得できて魔力を少し動かせるようになったが、空気中を漂う魔力を操るのは難しくて、まだ拳大の魔力しか操れない、俺のよく見てたダンチューバ―は目に映る限りの魔力を自在に動かせるが、それができるのは一握りの探索者だけであった。

 そして俺は最初に、体内の魔力を制御するために身体を流れる魔力を感じ取るところから始めたが、これが案外難しかった。

 まぁいきなり身体に通ってる血液を感じ取れと言われても無理なように、始めたての頃は全く感じ取れなかったが、ネットの記事に書いてあった『なんでもいいから身体になにかが流れるイメージを作るのがコツ』だというのを見てから実践したところ、すんなり感じ取れるようになった。

 身体を流れる魔力を感じ取れるようになったのは良かったが、体内にある見えない魔力を制御するのは、まだほとんどできていないのだった。

 まぁ簡単に制御できたらつまらないし、こういうコツコツ努力するのも別に嫌いじゃないので、これからも特訓は続けて行こうと思う。


 ちなみに探索者になると身体の内部構造が変わり、DNAの変化によって新たに魔力を蓄える臓器と、魔力を身体全体に流す血管のようなものが形成される。

 通常それの形成にはとてつもない痛みが伴うのだが、その期間中俺はスヤスヤだったので、俺視点知らぬ間に臓器の数と、血管を無断で増やされた気分だ。

 だがそいつらのおかげで、身体に魔力を蓄えてそれを体中に巡らすことができているのだった。


「しかし良かったわ。なにもなくて」


「なにもないことはなかったけどね」


「お兄ちゃんの他に探索者になった人は大勢いるけど、その中には覚醒する前とは程遠い外見に変化しちゃった人とかもいるらしくて、それ聞いてお兄ちゃんが化け物になるかもしれないってちょっと心配だったよ」


「え、マジ?いつの間にか俺そんな瀬戸際に立たされてたのかよ!」


「私お兄ちゃんの外見が変化しても、中身はお兄ちゃんのままなら受け入れるよ」


「妹よ……」


「あ、でも流石にゴブリンレベルはちょっと遠慮しちゃうかな」


「おい!遠慮すんなよ!」


「そういえば、今日父さんが帰って来るらしいわよ」


「え!?あの滅多に家に帰らないという父さんが!?」


 俺の父さんは探索者で、いつも海外やらを飛び回りダンジョンの探索や魔物の討伐などを行ったりしているせいで、中々家に帰る時間が無く最近はほとんど家に帰って来てなかった。

 そんな父さんが帰って来るというのは、家族にとっては一大事であり1年に1度あるかないかの大イベントなのだ。


「どうやら短期休暇を取って数日休ませてもらうらしいわ」


「珍しいこともあるもんだね」


「私何気にお父さんが何日も休むの見たことないかも」


「ただいま~」


 そして噂をすればなんとやら、父さんの最大連休日数について考察していたら、玄関からそう声が聞こえてきて数秒後、声の主がリビングに入ってきた。


「あ、帰って来た!」


「おかえりなさ~い」


「おかえり~」


「よ、ただいまただいま」


「あれ、お父さん荷物は?」


「あぁ、ギルドの倉庫に預けてきたよ。どうせダンジョンに関するものしか持ってないし」


「違う、お・み・や・げ・は?」


「あ~」


「せっかく海外に行ってるのに、この可愛い娘になんのお土産もないなんて……」


「うっかりしてたよ……ていうか、俺の娘はいつからこんなに現金なやつになったんだ?」


「父さんがダンジョンに潜ってる間にいつの間にかね……」


「お、翔!元気にしてたか?」


「まぁいろいろあったけど元気にしてたよ」


「お兄ちゃんは最近轢かれて元気無かったでしょ!」


「まぁまぁ」


「そうだ翔、お前探索者になったんだよな」


「え、なんでそれを?」


「いやなに、知り合いが協会で働いててな、そいつが教えてくれたんだ」


「休んだ理由ってもしかして……」


「あぁ、翔を探索者として鍛えようかと思――」


 そう言い終える前に、父さんの顔面に母さんのパンチが炸裂した。


「い、痛い……」


「何言ってるのよ、痛くないでしょ?」


「いや、心が痛い……」


「あらビックリ、自分の子供をあんな危ない業界に連れて行こうとしてる人に心があったなんて」


「別に連れて行こうとしてないよ」


「本当に?」


「ただいきなりよく解らない力に目覚めた我が子に対して、その力の使い方を教えて、他の探索者が行ってる学校に……」


「ほらやっぱりそうやって連れて行こうとしてる」


「違うよ、持て余した力が暴発したら周りもその本人も危ないから、それを防ぐためだ。それに同じ力を持った人たちが周りにいた方が影響が良いと俺は思ってるんだ」


「確かにそうだけど、でも危ないことに繋がることはしてほしくないわ」


 なんか俺の話を俺抜きでやってる……俺的には将来探索者になりたいから、父さんの申し出は嬉しいし鍛えてもらいたいけど……このままじゃ母さんが一生納得しなそうだな……


「翔はどうしたいんだ?」


 俺が話に入ろうとタイミングを伺っているのを察してか、父さんが話を振ってきた。


「俺がどうしたいか~?」


 正直まだ悩んでるところはある、それは俺の覚醒能力が弱すぎるというところだ。

 ダンジョンで活躍する探索者たちは皆、強そうな能力を手に入れているのに、俺は自然治癒力が他の探索者より高いだけ……ダンジョンで魔物を倒すには多分不要な能力だ。

 ということはつまり、俺がダンジョンに行くと言うことは、少し頑丈な人間がダンジョンに潜るというのと同義である。

 だけど一度は見た夢、探索者としてダンジョンを攻略するということはやっておきたいのだ。


「俺のことを鍛えてほしい、だけどその学校に行くのはもう少し考えさせてほしい」


「ということだけど母さんは?」


「はぁ……わかったわ。翔がそういうのなら好きにしなさい、ただしダンジョンに潜って探索者としての仕事をしたいと思っているのなら、必ずその学校に行きなさい。そこなら父さんの自己流じゃなくて、先人たちが築いてきた確かな知識を勉強を学べると思うから」


 こうして俺は今まで通りの学校から帰ってきたら、父さんとの特訓をするというルーティーンの生活が始まったのだった。

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