君の過去

ある日、いつものように君と遊んで家に帰ったとき「そういえばそろそろ一年ね。」なんて声がリビングから聞こえてきた。私は気になって、話していた母に「何の話?」と聞いた。すると母は「覚えてないの?」と聞いてきた。私は「覚えてない。」と言って話を聞いた。その話とはちょうど一年前、近所のアパートで家族全員で心中を図った人がいて結果としては一人だけ生き残った子がいてその子は私の一つ上だったらしい。一人ぼっちになったその子は親戚に引き取られて行ったけど毎年この時期になると戻ってきてお墓参りをしていくそうだ。私は直感的にあの子だ、と思った。何の確証もないけれどあの顔が決め手となった。いつ消えてもおかしくないようなオーラを纏ったあの子がひとり残されてしまったその子なんじゃないかとそう思った。翌日、いつもの場所に行くと君が待っていて「知ってしまったんだな。」と言った。とても悲しそうな顔だった。そこから私はすべてを聞いた。ある日突然両親が自分を台へ乗せ、首に縄をかけたと思ったら、自分たちも同じようにし、勢いよく台を蹴って首をつった。自分は何も知らされていなかったから両親と同じ瞬間に台を蹴ることもできず、かといって後から追う勇気も出ず、呆然としていたところ音を聞きつけた人がやってきて保護してもらったのだと。私は泣いていた。君も泣いていた。私は「辛かったね」や「残念だったね」、「悲しかったね」より「よく頑張ったね。」がするりと口から出た。よく知らない土地で強いられる両親がいない生活。憐れむ親戚と過ごす時間は苦痛だっただろう。確かに可哀想だけどきっと君は憐れんでほしかったわけじゃない。静かに寄り添ってくれればそれで良かったんだと思う。話を聞いて君の本心はわからないけれど私が少しでも君の助けになれていたらいいな、なんてそう思ってしまった。

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