幕間

「ねえねえ悠斗君、今日授業サボっちゃおうよ」


 朝比奈さんがベッドの上で俺に抱き着きながら上目遣いでこちらを見つめる。

 意外なことに寝起きの朝比奈さんはかなり面倒くさがりで、一限がある日なんかはこうやってわがままを言う事が多い。


「駄目です、行きますよ? 取り敢えず早くシャワー浴びましょう」


「うー……。けどけど、このまま家でゆっくりしてずーっと抱きしめあってたら幸せだって思わない? 私は最高だと思うな―」


 確かにそれは幸せだろう、だろうけど……。


「朝比奈さん、僕と同学年になりたいんですが?」


「うっ……! 私に先輩というアイデンティティが無くなっちゃう……それは駄目、奏さんに負けちゃう!」


 そう言うと、朝比奈さんがようやく布団から這い出る。

 俺も後に続くように布団から出ると洗面所へと向かう。


「最近悠斗君が私のわがままを聞いてくれない……」


 わざとらしく肩を落とす朝比奈さん。

 かわいい……。

 

「いや、それは……」


 俺が困ったように返事をするとすぐに顔を上げて笑顔を向けてくれる。


「けどそう言う所、私すごく好きだよ。なまけちゃう私を引っ張ってくれる悠斗君だから私はあなたを好きになったの」


 その声音は真剣そのもので、だからこそ無性に照れ臭くなる。


「だから、これからも私のわがままを許さないでいてね?」


「というか、あんまり言わないでください」


「き、気を付けるよ……!」


 朝比奈さんが下着を脱いで逃げるように風呂場へと入っていく。

 きっとこれからもたくさんわがままを聞いて、たくさん注意する事になるんだろう。


 そんなやり取りが、たまらなく幸せだった。


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