Track7 雨音と一緒にさようなら

 外にしっとりとした秋の雨音。


 旧校舎の一角。ぎしぎしと軋む床をゆっくり踏んで歩く。


 ガチャガチャという鍵を開ける音。


 七生の手でゆっくりと扉が開かれる。


「ここに来るのも懐かしいわね。あなたと出会ったとき以来だから……2週間くらい? 一ヶ月も経ってないのになんだか1年くらいずっと一緒にいたような気がしてくるから不思議だわ」


 七生、ゆっくりと扉を閉める。


「さて」


 七生、ふうと息を吐き、


「私の本当の望みは、さっき話した通り。だから、あなたが望むのなら、あなたはこの教室に戻ってもいい。……利用されるなんて、嫌でしょう?」


 雨音がする。


「……え? 聞き間違い、じゃないわよね?」


「いいの? 私、あなたの望みを人質に、自分の実績、トロフィーにしようとしていたのよ?」


「もう、満足したから……って。え、うそ……」


 あなたの身体が消えはじめる。


「そんな。だってあなた、何十年もこの教室にいたんでしょう。たかだか二週間程度で、解消できる未練じゃあ、ない……はず」


「……私? 私が、楽しそうにしていたから、だから満足できた……?」


「な、なによそれ……オカルト研究部の部長たちの青春を奪っていたんじゃないかって、それが気掛かりだった? はあ? 自分の青春は、もう二度と手に入らない楽しい日々は、そんな気掛かりに比べればちっぽけなものだとでも言うの……!?」


「…………信じられない。あなた、ちょっとお人好しが過ぎるわよ……」


「はあ……………………」


「なんだろ。私、自分のやり方で霊を祓えるってこれで証明できるはずなのに……全然嬉しくない」


「あの、ね。これからすごく身勝手なこと言うけど、いいかしら?」


「……魂の輪廻と、時間の流れは別って考え方が、あってね…………だからその、もし、あなたの来世が私と同じ時代で、もしも、この学校に通うようなことがあればその時は、この文化祭が終わったあとの私に、自分こそが、この旧校舎の幽霊の生まれ変わりだって、教えてほしいの」


「私、まだまだ。ぜんっぜん……! あなたを成仏させるに足るだけのことができたって、納得していないから!」


「だから……ええ。今は、さようなら」


 七生の声が遠くなる。


「どうか。あなたに素敵な来世が、ありますように」


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