Track3 文化祭の準備
新聞紙を机の上に置く音。
「オカルト研究部ではお化け屋敷を出すわ。……ええ、そう。実はあなたがいるから。本物のお化けがいるお化け屋敷ってわけ」
「まあ、こんなへんぴなところにある部室にまで足を運んでくれる人なんていないかもしれないけれど……コンセプトとしては、面白そうじゃない?」
「部室の広さは……見ての通りだから、こっちからこう来てぐるっと回って出て行く一本道のルートしか作れないわね。だからこそ、内容は練りに練ったものにしないとね」
「あなたが手伝ってくれれば、きっと他にはない、すごいお化け屋敷にできると思うの。よろしくね」
「……さて。そうは言っても、もう文化祭まで時間ないしある程度の準備は今から始めないと……そういうわけで、部室の飾り付けは今からやっていくわ」
七生、新聞紙を広げてばらばらにする。
「まずは、窓に新聞紙を貼って光が入らないようにしましょう」
ビリッというビニルテープの音。
ハサミでチョキンと切る音。
「新聞紙のはしっこにテープを貼って……よい、しょっと。これを続けて、全面を覆っていくの。そんなに広くない部室だし、すぐに終わると思うわ」
「……ん? 文化祭の準備って忙しい? ええ、本当にね。単純にやることが多いし、一つ問題が解決したと思ったらまた別の問題が発生するんだもの……まさか、模型同好会の展示予定だったトロイの木馬が実物大を想定していたとはね」
「ウチの学校、地中海周辺の古代史が大好きな人多すぎない? ……ほんと、ぜんぶなんとかなってよかったわ。ピラミッドの建設は阻止できたし、ギリシア火は本物じゃないと確認がとれたし、トロイの木馬はミニチュアスケールの製作で納得してくれたし……ああ、あと囲碁部は結局普通に囲碁体験会を開くことにしたそうよ。茶道部と協力して室町時代イメージに部室を改装していくとか」
「この学校に変わり者が多いだけじゃないかって? それは……言えてるかも。良くも悪くも、この学校はそういうところみたいなのよね。生徒達の意思と自主性を尊重する校風っていうか」
「そういうところに、あなたも惹かれていた——そうでしょう?」
「……ふふ。良かったわね。私に出会えて。この忙しいけれど楽しく、心安らぐ喧騒に触れることができて」
「文化祭当日はきっと、もっと楽しくなるわ」
七生、窓から少し離れて。
「……よし、だいたいこんなところかしら。電気、消してみるわね」
カチっというスイッチを切る音。
「うん。問題なさそう。ちょっとだけ光が漏れちゃっているけれど……そこは上から黒いビニールを覆えば大丈夫そうね」
七生、電気をつける。
「ふう。とりあえず窓はこれでよし、と。あなたもお疲れ様」
「壁も覆わなきゃだし、そこの棚とかもどうにかしないとなんだけど……まあ、そこは一旦、あとで考えるとしましょう。今日は疲れたしね」
「え? 他の部員? ……ああ、他の部員たちは自分のクラスの出し物とか、自分の部活の出し物とかに力を入れててこっちはあんまり手伝えないみたい」
「なーにが、部長には旧校舎のヌシがついてるからいいじゃないですか——よ。まったくもう…………なんて、文句の一つでも言いたくなっちゃうけれど、まあ一段落ついたらこっちも手伝ってくれるみたいだから、その時は散々こき使って溜飲を下げるとしましょう」
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