Track2 生徒会のお仕事

 カタカタという、心地よいキーボードのタイプ音。


「ん……予算申請の書類はこれで……いや、電卓で検算もしておかないとね。設定されてる数式に万一でも誤りがあってはいけないもの」


 七生、傍らに用意した電卓をパチパチと叩き検算する。


「……よし。間違いなしっと。じゃあ、これは保存して次……」


 七生、あなたの視線に気付く。


「どうしたの? ってああ、これ? 今、文化祭が間近に迫っていてね。それで、ちょっと生徒会もいろいろとやらなくちゃいけないの」


 七生、タイピングを続けながら答える。


「オカルト研究部の部長なんじゃないか……って? そうよ? 私、生徒会にも入ってるの。会計担当でね」


「色々とやることがあって大変なのよ……さっきみたいに予算関係の書類チェック以外にも、いまやってるみたいな、頒布書類の作成までやらされてて……会計担当のする仕事じゃなくない? みたいなことをちょっと思いはするけれど……ま、みんな頑張ってるからね」


 傍らに置いた紙の上にボールペンを走らせる。


「……えーと、この書類もオッケ、と。次は…………ん? 何か手伝えることはないかって?」


「そうね。それじゃあ向こうに詰まれっぱなしの書類をこっちに持ってきてもらえるかしら? そう、それも処理しなきゃいけないやつだから」


「……手書きの書類なんて持ってこさせないで、デジタルで記入してもらう形式なら楽なんだけどねー……ま、紙の書類だからあなたに仕事を手伝ってもらえると思えば、それも悪い話じゃあないか」


 あなたが紙の束を七生のそばに置く。


「ありがと」


 七生、紙を一枚一枚とって確認していく。


「えーっと……部活の出し物についての書類か……囲碁部は囲碁体験会……問題な…………んん? なんでロボットアームを作ろうとしてるのよ!」


 七生、鞄をごそごそとあさってスマホを取り出す。電話をかけて、


「もしもし? 生徒会会計の光島だけど。囲碁部の出し物の件で…………そう。それ。あのねえ、なんで囲碁体験会にロボットアームが必要なの? ……はァ? 囲碁といえばAIだから、来客に最新の囲碁AIと対戦して欲しィ?」


 七生、深くため息。


「あのねぇ、それならまずロボットアームなんかよりも高性能なパソコンを用意しないと……学校にあるPC? 無理よ無理。性能が到底追い付かない。ついでに囲碁部で買うってのも無理。予算が圧倒的に足りないから……そこをなんとかって……どうせ、ロボットに来客の相手をさせておけば自分達は自由に文化祭を楽しめるとかそんなところでしょ?」


「図星のようね。はい。それじゃあ健全な囲碁体験会に企画を練り直してちょうだい。……ハリボテのロボットアームで良ければ、私から工作部に話つけてどうにか用意できると思うから。……はい。その時は私に連絡してね。それじゃ」


 七生、電話を切って机の上にスマホを置く。


 囲碁部の書類の上にペンを走らせる。


「ま、この書類は却下ね……ふう。まったく囲碁部はどうしてこう……」


「心配してくれてるの? ありがと。でも大丈夫よ……いや、やっぱり手伝ってもらおうかしら」


 七生、書類を半分に分ける。


「あなたはこっちの書類を見ていって。わからないこともあるでしょうけれど……とりあえず、問題がなさそうなものはここに、判断がつかないもの、通したらまずそうなものはこっちに」


 あなたの紙を動かす音が続く。


「……にしても、あなたってポルターガイスト能力の使い方がとても上手よね。手で触れるかのように繊細で……」


「歴代部長の中にゲーム好きがいて、一緒にゲームしてたら上達した? へえ…………いや待って? ウチの学校そういうのの持ち込み禁止だったはずなんだけど」


「……ま、いいわ。そのお陰であなたを私達の学園生活に参加させられているわけだもの。その校則違反の先輩には感謝しないとね」


 紙をぺら、ぺら、と捲る音がしばらく続く。


「……よし。この辺の書類は全部問題ないわね。よかったよかっ……なに、ピラミッド作り体験って。古代エジプト同好会なんてあったかしら…………ええと、部活・同好会の一覧は……」


 マウスを使ってPCを操作する音。


「設立申請が、先月。同好会の会長が……あった。連絡してみるわ。仕分けの方、続けててちょうだい」


 保留音が続く。しかし、電話が切れる。


「むぅ。直接会いに行くしかないか……学年、クラス、氏名は全部わかってるし、問題はないけれど…………でもこの出し物の説明、いったいどういうつもりなのかしら。積み木か何かでピラミッドの模型を作るんじゃなくて、実物大のピラミッドを作るって書いてあるように見えるのだけれど…………さすがに何かの間違い、よね。そもそも石が用意できるはずないし」


 ペンを走らせる音。


「……ええと、一応保留っと。それじゃあ次……」


 紙をぺら、ぺら、と捲る音がしばらく続く。


「……うん。私の分は、もう大丈夫そうね。他は何も問題なし。じゃあ、あなたが仕分けしてくれた分の確認、進めさせてもらうわ」


 七生が紙の束を手に取り、確認する。


「……うん。全部問題なし! ありがとう。そしてこっちが問題ありそうなやつ、ね…………ええと、工作部が『ギリシア火投擲具の作り方』、科学部が『ギリシア火の作り方』………………うーん、話を聞くまでもなさそうな気配がぷんぷんするわね」


 七生、はあとため息。


 七生に電話がかかってくる。


「はい。光島……ええ? 校門前? わかった見てみる……」


 カーテンをシャッと開ける。


「…………ああ。なるほど。古代エジプト同好会は本気だったってわけね」


 七生があなたに言う。


「……校門前に、クソデカい石を積んだトラックが止まってるの。どうしたらいいと思う? あれ」

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