膝枕と耳のマッサージ・耳かき

「次はね、耳かきで~す。ほら、癒しって言えば、耳かきじゃない? そういうお店屋さんもあるし。え、なんで照れてんの。何をそんな……、別に普通じゃない? 恋人の耳かきなんて。あぁもう、いいからいいから。絶対気持ちいいから。ね?」

「ん。素直でよろしい。そういうところ、大好きだよ。じゃ、ほら。ここ、膝。頭のっけて。はい、どうぞ~」


 ぽんぽん、と彼女が膝を叩く。

 照れくさくて渋っていると、彼女が手を伸ばしてきた。


「何を恥ずかしがってんだ~! ほら、おいで。ほらほら。おいで。はい、ころ~ん。は~い、よくできました」


 仕方なく彼女の膝に頭を乗せると、嬉しそうな彼女の声が上から降ってきた。

 そのまま、愛おしそうに頭を撫でてくる。


「はい、いい子いい子。それではお客様~、耳かきの前に耳をマッサージいたしましょ~。……え、知らない? 耳もね、ツボとかあるんだよ。うん。そう。なので、今から耳をマッサージしていきますね~」


「こうやって、耳を引っ張ったり、指でほぐしたり……。ぐにぐに、って揉むの。全体的に、まんべんなくね。気持ちよくないですか? よくわからない? そっか~。なら、もうちょいやってみますね」


「……あ、耳がかゆくなってきた? それはですね~、血行が良くなってきた証拠なんですね~。耳、赤くなってますよ。うん。うん。お、気持ちよくなってきた? でしょでしょ? そうなんだよね、耳も意外と気持ちいいんだ」


「ええとね、お客さんの場合はですね、耳たぶを揉むと良いと思いますよ。ここはね、目のツボがあるんです。仕事中に目が疲れたな~、っていうときは、ここを押したり、引っ張ってみてください。こういうふうに……。ふにふにふに、っと。あ、気持ちいい? よかったよかった。なら、いっぱいやってあげましょう……」


 くにくにくに、と耳を揉んだり、引っ張ったり……、という時間が続く。

 しばらくそうやったあと、彼女は「ちょ~っと失礼しますね~……。びっくりしないでね~……」と言いながら、おもむろに人差し指を穴の中に入れてきた。


「こうやってね、指を耳の穴の中に入れて……。この指をね、とんとんとん、って叩くの。これ、気持ちよくない? わたしは好きなんだけど……。あんまりだったら言ってね。はい、とんとん」


 とんとんとん、と規則正しいリズムで、彼女は指を叩く。

 その振動が心地よく、つい「もうちょっと」とお願いしてしまう。


「あ、気持ちいい? あはは、気に入ってくれてる。じゃあ、もうちょっとやってあげよう。はい、とんとん」


 しばらく、その振動を楽しんでいたが、ちょうどいいところで彼女は手を離した。


「それじゃ、次は耳かきをしていこっか。はい、右耳を出してくださいね~……。失礼しま~す……。うん。うん。あー、でもそんなに汚れてないね。偉いじゃん。ええと、まず外側から掃除していくね……」


 竹の耳かき棒が、耳の穴ではなく、その外周をなぞっていく。


「うん、耳掃除はね、穴の中だけじゃダメなんだよ。外側も汚れが溜まるんだから。耳って意外と複雑な形をしているでしょ? 細かいところに汚れが入り込むの。まずはここを綺麗にしていきましょうね~……」


 スーッ……、スーッ……、と耳かき棒が耳の内側をなぞっていく。


「うん、ここはちょっと汚れが溜まってるね。あはは、しょうがないよ。意識しないと、汚れるなんて思わないもの。今度から、掃除するときは気を付けてね。あ、わたしが毎回掃除してあげてもいいよ?」


「その代わり、わたしの耳も君が掃除してね~。え~、やってよ~。憧れるんだよね、恋人との耳掃除。やってもらうのも、やってあげるのも。ね、いいでしょ? ね? あはは、やった。約束だよ~」


「よし、綺麗になりました。じゃあ、お次は耳の穴にいきましょう……。ん? あ、穴がかゆい? それはあれだね、さっきマッサージしたでしょ? 血行が良くなったから、そうなってるんだよ。あ、早く掃除してほしいね? わかったわかった、待っててくださいね~……」


 彼女は笑いながら、耳の穴に棒の先端を入れていく。


「慎重にやっていくけど、痛かったらすぐ言ってね。わたしもね、こういうの初めてだから。まずは入り口のあたりを掃除していくけど……。こうやって、入り口をくるくるされてるだけでも気持ちよくない? だよね。いいよね、これ」


「気持ちいい? ふふ、よかった。なんかね、耳掃除って耳の入り口をちょっと掃除するだけでいいらしいよ。お風呂上りとかに。そうそう。そ、この辺。ここ~。お、気持ちよさそう。ここが君の弱点だな~。うん、たくさんやってあげるよ。気持ちいいんだもんね。うん、嬉しいよ」


 しゅっ、しゅっ、と擦る音が響いていたが、それが徐々に深くなっていく。

 かり、かり、と音が変わっていった。


「でもあれだね。本当に綺麗だね。あんまり耳垢ないよ。ん、でも奥にちょっとおっきいのがあるかな? おっけ、おっけ、取るから大丈夫だよ。待ってね、今深く入れるから……。お、取れそう……。もう、ちょい……。あ、取れた。あはは、気持ちよかった? よかったよかった。大体取れたかな? じゃあ最後に……」


 彼女は顔を近付けると、ふぅー……、と耳の穴に息を吹きかけた。


「はい。スッキリした? ……びっくりした? あ、ごめんごめん。そっか。次から言ってからやるね。ん。よかった。はい、じゃあ今度は反対側の耳を掃除しますので、くるって回ってくださーい。はい、くる~。よし、じゃあこっちもマッサージしていこっか。うん? 眠くなってきた? 寝てていいよ。寝ている間に掃除してあげるから」


 彼女の気遣いに、意識が遠くなっていく。

 気付いたときには、再び、耳に「フゥ~……」と息を吹きかけられたところだった。

 しかし、意識は半分眠っており、心地よい快感に目を開けられない。


「はい、こっちも綺麗にできました。うん、スッキリしたね~、よかったね~。ね、気持ちよかった? ……ん。ありゃ。寝ちゃったか。そうだよね、疲れてるもんね。いつもお仕事、お疲れ様。よしよし。いつも頑張って偉いよ~」


 頭を撫でる音がする。

 しばらく撫でたあと、彼女は耳元に口を近付け、囁き声で続けた。


「お仕事を頑張ってる君は格好いいよ。でも、たまにはわたしにも甘えてほしいな。せっかくいっしょに住んでるんだし……。今日は甘えてくれて、嬉しかったよ。これからも、癒してあげるからね。大好きだよ」


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