第2話 師匠
城壁の外には30年前まで人間が使っていた道具や、町に不要とされた機械が山になって捨てられている。遠隔操作のため手動ブレーキが無いトロッコは、小さな部品を踏むたびに弾み進行方向を微妙に変えながらスクラップの山に突っ込んだ。
「いっ!! ……てぇ……え?」
追い打ちをかけるように、ガラクタの山が雪崩を起こしてソラを埋めてしまう。
「ぷはっ……乱暴だなぁ。」
トタン板の下から這い出したソラに荒い足音が近づいた。
「こらぁ!! 崩すなと言っとろうが! また寝床が埋まっただろ。」
油と泥にまみれた繋ぎを着た初老の男だ。気難しさが顔の皺に現れ始めているが、細い体躯には一切のたるみも無く筋肉で引き締まっている。老人を見た瞬間、ソラの顔が一気に晴れた。
「ごめんじっちゃんでもいいとこに来た! ここに埋まってるトロッコ改造してくれ。列車出発までに。」
満面の笑みに押されて、老人は説教の続きをため息にして吐き出した。トロッコに乗った瓦礫を蹴とばすとソラも発掘に取り掛かる。列車の往来は不定期だ。今回を逃すと次は何日後か何十日後かわからない。
「よく殺されなかったな。」
ひび割れたゴムのタイヤを放り投げ、錆びた鉄骨で鉄板を持ち上げる。
「裏道教えてくれたのじっちゃんだろー?」
錆びていないねじが出てきたので老人に渡す。
「ばれたか。」
「いんや、ぜーんぜん。聞かれもしなかった。」
「ならいい。」
老人の眼に宿った緊張を、ソラは緩い笑顔で躱した。というより気付かなかった。
「あと師匠と呼べと言っとろうが。」
「俺に言うなよなー。」
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