第3話 棄てられた人形

 ガシャンッと轟音を最後に耳障りな金属音がやんだ。駅の扉が開ききったのだ。


「そういや駅の中面白くてふらふらしてたら見つかってさ。」


「ばかもんが。」


「だってさ、列車が天井にぶら下がっ──じっちゃんこれ見て! 機械人形出てきた!」


ただでさえ弾んでいるソラの声に興奮が混じる。手を止めて視線をやると、ソラが白い長髪の機械人形を引っ張りだしているところだった。


 機械人形の部品は稀に落ちているが、五体満足の完品は30年ここに住む老人も初めて見た。戦争以降は人々にトラウマが植え付けられていた上に材料も無く、人間は機械人形を作っていない。そのため人間が機械人形を見る機会など滅多に無い。


「んー? ほーぉ……作った奴は人間だな。」


華奢な少女を模したそれは、人工の皮膚を被っているだけでなく肉の柔さまで再現されていた。触れることが憚られるほどに生々しい。薄汚れた白いワンピースも、誰かが罪悪感に駆られて着せてやったのかもしれない。それほどまでに人間に近く、しかし明らかに作り物の顔立ちをした機械人形だ。


「なんで分かるんだ?」


そう判断する決定的な何かがあるのかと、ソラが機械人形の顔を覗き込む。


「人間じゃねぇとここまで見た目にこだわらねぇ。」


疑問でいっぱいという様子だった割に、ソラはあっさりと頷いた。


「確かに町の量産されたのはもっと機械って感じだったなぁ。じっちゃん、こいつ動かせそう?」


「そうだなぁ。」


老人が右手の甲で機械人形の鎖骨の間を軽く小突いた。人間の身体からは発されることの無い、無機質な空洞の音が響く。


「こりゃあ駄目だ。心臓が無い。そこだけ再利用してガワだけ捨てたか。」


機械人形の心臓はバッテリーや動作の管理を行う最も重要な部品だ。その重要さ故に修理を重ねながら再利用されることが多い。30年以上前に人間に作られ、戦争を経て町の住人となり、故障か何かが原因で心臓だけ抜かれ棄てられた、と言ったところだろうか。


「じゃあ作ってやってよ。」

「断る。」

「ちぇーせっかくの機械人形なのに……とりゃ。」


老人が直してくれる可能性を捨てたソラは、得意のゴリ押し修理をすべく機械人形の眉間に手刀を落とした。


「お前いつの時代の人間だぁ? 何度も言ってるだろ。精密機械は──」


鼻で笑う老人をよそに機械人形が水色の眼を開いた。


「起動シマス。」


「やりぃ!」


平坦な機械音声にソラの声が重なる。


「雑な機械もあるもんだ……。」

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