彼は、純粋に困っている人を助けたいという一心で、金を用意してあげるのだと言った。

最近ありがちな詐欺展開なので、僕は彼に警告したけど、彼女はそんな人じゃないと強く主張した。

そう思いたいだけなんじゃないか、と指摘したら、苛立って余計に彼女に肩入れする始末。


そういうことは彼女が親族同士で解決したらいいのに、と僕がやんわり意見しても、それができないから俺を頼ってきたんだろ、と言い放つ。

そして、結婚したら、義母のそういう面倒も見ることになるだろうから、こういうときにこそ安心感のアピールしておくと紗和との距離をさらに縮めることにつながるという持論を展開した。


そんなふうに、紗和が説明したわけでもないことさえも自身の妄想で際限なく論理を構築して、勝手に一人で満足している。


暴走中年、一丁上がりだ。


控えめにいっても、これは相当だるい。

もう僕が彼に憑いている意味はなさげなので、週明けには異動願いでも出すかな。


三十万も彼から簡単に引き出せたから、このあとは彼女が結婚をちらつかせて、今度は父親が事業に失敗したとかで、さらに桁を上げて金を無心してくるかもしれない。

そういう悲観的な、あるいは性悪説寄りの意見とかで恋の邪魔だてする奴には、ひと昔前だと、馬に蹴られて〇んでしまえ、なんて物騒な言葉さえ存在したが、他方では人を食い物にする輩は絶えず、いつの世も一定数を保っている。


しかも多良さんは、テレビやネットのニュースでいわれている恋愛詐欺、ロマンス詐欺に自分だけは引っかかるなんてありえないと思っている様子だ。

非常に、非常に、異常におめでたい頭をしている。

自己暗示の天才だと言ってやりたいくらいだが、たぶん、彼にはこの皮肉も通じないだろうな。


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