…
仮に紗和の話が本当なら、深いつながりがあるわけでもない間柄でこんな金に関するお願いはまずいと、まずは彼女の側が思わなくてはならない。
僕があれこれ心配し、疑念を深めているあいだにも多良さんは親身にラインして、そのうち将来の結婚を話題に出すようになったようだった。
彼女の結婚への意思を探るつもりだったというが、彼はブラック企業に勤めているということもあり、自分の内面以外に退職理由が見つかったと感じてからは、新しい人生設計へのアイデアが浮かぶようになったらしい。
例の自己暗示パワーが推進力となったのだろう。
が、数日もしないうちに多良さんの表情は冴えなくなっていった。
僕の方も二人のことを詮索しないようになっていたから、改めて探るとこういうことらしい。
俺、近いうちに君の住んでいる街へ行くから、そしたら一緒に暮らそう。そう書き送ったのだという。
今の仕事はどうするのかと訊かれたので、辞めて彼女と住む地で新しく探すことを打ち明けたところ、返信が来なくなったらしい。
それどころか、数時間もしないうちにブロックされたのだとか。
ははーん。
金づる認定取り消しだな。
僕はそう感じた。
あるいは善意に取るなら、金が尽きて借金させるのはさすがに忍びないと彼女の良心が咎めたのかもしれない。が、そんな人が深く知り合ってもいない相手に平気で三十万も借りる神経はやはりどうかしたいる。
たぶん他にもいるカモ候補の男らの方に専念することにしたというところだろう。
ホテル代と入院費にすると言って彼女が借りた金は、残念ながら、もう返ってくることはないだろう。
多良さんは、自分がいけなかったんだと言い出した。
さすがに反省している様子だ。
聞くと、俺が先走って結婚の話をしすぎてそれが紗和さんには重かったかもしれない、と。
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