ただ、会ったこともない画面の中だけの女性を入れ込んで春だと騒ぐのは、誰に向かって微笑んでいるのか分からないグラビアアイドルに恋するくらい、薄っぺらいときめきだと思う。


が、多良さんは元来守護霊の意見には耳を貸さないタイプだから、気分悪いし僕はもう気づきのヒントをあげるのも、意見するのもなるべく控えることにしている。


とはいえ、実はこれって、駄目な前兆なんだよな。

待ち受けているのは、彼が言うような春なんて萌え要素しかないかわいいもんなんかじゃない。僕には、そう遠くない未来に暴走老人が見えている。


とりあえず多良さんは、その紗和さわという女性とのやり取りに夢中になった。

彼特有のまめさと素朴さが好感したのか、数日やり取りしているうちに、彼女と会う約束を取り付けたらしい。


まあ、これ自体は一歩前進ということで、讃えるべき功績かもしれないな。

貧困・独身・非男前の社会的弱者の男性である”弱小男子”なりに頑張ってはいると思う。


彼女は地方から新幹線に乗ってやってくるらしい。

それで、その交通費として振込で二万ほど貸してしてほしいと言われたようだ。

守護神的にはビミョーな頼みである。

つまり身元のはっきりしない者同士で金の貸し借りはちょっと怪しげなのだが、多良さんは人が好すぎるのか、あるいは下心で頭がやられてきたのか、貸すことにしたらしい。


彼女がこちらへ来たときに全額返す約束で問題ないと彼はいっている。

十歳歳下の紗和から、器量の小さい男と思われたらかなりマイナスだと計算もした様子である。

多良さん本人は、まるでそういうつもりはなさげだけど、まあ、正直ギャンブルだよね。




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