第7話

僕は朝から近所のおばちゃんたちに普通とは何かを聞いていた。だけど,どれもしっくり来なくて。

 毎日聞き回っているうちに,タイに帰る日になってしまった。

 飛行場へ向かう車の中。


 嫌だ。もっとここにいたい。普通に当たり前のように毎日みんなと遊びたい。

 帰りたくない。

 飛行場についてチェックインする。その時も僕はモヤモヤでげんなりしていた。

 帰るって考えるとお腹の底がキリキリ痛いんだ。

「剣!」

 後ろから声がした。凛とした綺麗な声。この声って……

「黄花……?」

 振り向かずにわかる。この声は黄花だ。

「剣。普通について,わかったよ」

 そうだ。黄花に相談してたんだっけ?LINEで。昨日。

「何?普通って……」

「剣。昔の友達と会ったんでしょ?ボクもそうだよ。ボクも,自分が納得できる考えを探したんだ」

 僕は黄花の言葉に耳を傾けた。

「普通はね簡単に奪われる。剣も引っ越すことで,日本での『フツウ』を奪われたんでしょ」

「……」

「でもね,奪われても,その普通は心の中で生きてる。だから昔ああしてたなって昔の普通を思い出せる。普通は強くて何をしても壊れない。だからあの時の普通はって考えちゃうんだよね」

「……」

「ねぇ剣。タイに来て,ボクたちと遊んだのも普通じゃない?」

「えっ」

 確かに今まで黄花と遊んだのも普通だ。あれ?じゃぁ。本当の普通はどっちだろう。

「フツウは何個あってもいいんだよ。日本とタイの普通って違うけど,どっちも大切な思い出でしょ?」

「何個あってもいい……大切な……思い出……」

「フツウは当たり前やいつもって意味。けど,それはすぐに変わるし,年齢が大きくなるとその普通も変わってくる。だから同じ普通が続くのは少しだけなんだよ」

「変わる……少しだけ……」

「フツウは変わるんだよ。だから今はボクたちとのフツウを歩んで,日本に帰ったら日本の友達とのフツウを歩めばいいんじゃない?タイに来る前と全く同じ普通は無理かもだけど……」

 普通は変えられる。

「普通を忘れるのは厳しいかもだけど今は忘れていても,いいと思う。ボクが言える事じゃないけど……それでも!伝えたかった。普通は変わるってことを」

 あ……そっか……フツウは変わるんだよ。昔のフツウを思い出して悲しむよりも,今の普通で楽しめばいいんだ。今の普通は黄花と遊ぶこと。

「ボクはこの考えで楽になれた。だから剣にも言ってみた」

 日本の普通の扉を閉めておいて,日本に帰ったら開ければいいんだ。同じ普通は少しだけ。じゃぁ。また新しい普通を作ろう。今、あの場所で黄花と。

「黄花!ありがとう!」

「剣!そろそろ飛行機出るわよ!」

 お母さんの声。

 心のもやが晴れてスッキリした気持ちで僕は飛行機へと飛び乗った。


 ※剣の友達のところは実際の自分の友達に当てはめたり,自分の普通に当てはめて読んでみてね♪

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僕とフツウ Veroki-Kika @Veroki-Kika

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