第32話
お昼を過ぎた頃、僕は彼女の胸に顔を挟まれた状態で目を覚ます。
「おはようシオ。」
「お、おはよ……。」
サルサは僕の頭を優しく撫でる。僕はその感触に思わず目を細める。
「ふふ、可愛いな。」
彼女は僕の顔を見て微笑んでいる。僕は恥ずかしくなって顔を逸らした。サルサはそんな僕の顔を両手で掴むと自分の胸に押し付ける。
「むぐ!」
彼女の胸に僕の顔が埋まる。柔らかい感触に思わずドキッとするが、すぐに我に返り抵抗しようとするも力が入らない。
「ねぇサルサ……。」
「なんだ?」
「知ってる、ってどういうこと?」
「……………そのままの意味だ。」
そう言うとサルサは僕を解放してくれた。そしてベッドの上であぐらをかくと、膝の上に手を置いた。
「…………見ちまったんだ……きっと……………あれはシオのいつか。もちろんアタシが生んだ悪い夢かもしれねぇが……」
サルサは申し訳なさそうに、悲しそうに自分が見たという夢の内容を語り出した。それはあまりに酷く鮮明で、凄惨で、生々しくて……。
「そっか……。」
そう言い天井を見つめていると僕はなんとも言えない感情になっていた。胸の奥にモヤモヤとした何かが残っているような感じだ。
僕はまた話をはぐらかして有耶無耶にしようとしているのだ。彼女は優しいから決して聞き返すことはしないだろう。
この気持ちはきっと罪悪感だ。彼女の好意を利用し、僕のことを綺麗だのキラキラだのと言ってくれる彼女を騙し続けている罪悪感だ。
……それでも、彼女の笑顔を見る度にこんなこと忘れてしまうくらい温かいものを感じていたはずなんだ。それなのにどうして未だに
『もう、いいよ。』
そんな声が聞こえた気がした。
僕は彼女の胸に飛び込む。
「そのままで聞いて。」
今は顔を見れる気がしない。
「サルサの見た夢は……確かに僕の記憶だよ…。10歳の時……初めてお父さんに犯されて………次第に僕を売り出して……それから毎日のように弄ばれて……身体も心もボロボロだった……。何度も家から出ようとして連れ戻されて折檻されて……何度も死のうとしたけどそんな勇気無くて…」
僕はゴロンと転がり横に何ながらサルサと向き合う。彼女の目は既に潤んでいる。
僕は首元に指を指しながら
「ここに煙草を押し付けられた痕が沢山あったんだ。…それにほら、鎖骨、分かる?少し歪んでるでしょ。首を絞めながら押し倒された時に折れたんだ。子供って骨が柔らかいから、多分変な風にくっついちゃってそのまま…他にも腕や太ももに傷があったんだ……。なぜだかこっちに来た時に綺麗さっぱり治ってたんだけどね。」
「ねぇサルサ……僕…………サルサが言うように綺麗でもキラキラでもないんだよ。こんなに汚れてるんだよ。」
「こんな僕でも…………愛してくれる?……」
シオの目には涙が大量に溢れていた。サルサはシオを抱き寄せると胸に埋めさせた。
シオはサルサの大きな胸の中で小さく泣いた。サルサは涙ぐみながらも声を荒げず優しく言う。
「………たり前だ…当たり前だ!……」
サルサはそう言いながらシオを強く抱きしめた。シオもサルサの背に手を回して抱きしめる。
「……ごめんねサルサ……」
「何がだ……」
「……サルサは話してくれたのに……僕は……怖くて…何も話せなくて……」
「気にするなって言っただろう。」
サルサは抱き締めたまま耳元で囁く。そしてそのまま二人はキスをした。
「んっ……。ありがとうサルサ……」
シオは唇を離し顔を上げる。ひとしきり泣き終えるとサルサは優しく微笑み、再び唇を奪うようにキスをする。
「ねぇサルサ。」
「なんだ?」
「なんかその……恋人の儀式みたいなやつって無いの?獣人の。」
そう尋ねるとサルサは少し困った表情をし、ウンウンと唸りながら
「いや……あるにはあるんだが…その………人間…というかシオにそれをやるのが気が引けるというか…」
その少し困った表情に僕はなんだか意地悪がしたくなってしまった。
「そっか……サルサは僕のこと恋人って認めてくれないんだね……」
と少し寂しそうな振りをする。
「違う!」
「なら教えてくれるよね!」
するとサルサは少しバツが悪そうに口を開く。
「その……互いの身体に
「僕はサルサになら構わないし、そもそも男の身体に綺麗とかって言わないと思うよ?」
「シオの身体は綺麗だぞ?肌は白くてスベスベでぷにぷにだし、細い腰も脚も綺麗だ、それにピンクのちっちゃな乳首も………その…綺麗で可愛いし…」
僕はまさかこんなこと言われるとは思わずは顔が熱くなる。
思わず布団で身体を隠してしまった。
「やけに胸のあたりにキスされると思ってたけど……」
「よく服の隙間からチラチラ見えてて可愛いなって……」
サルサは少し顔を逸らす。
「お、男の胸を可愛いって……」
「嫌か?」
「…………サルサなら…………いいけど……。」
「もういいよ、早くしよ?」
互いに抱き合い証の準備をする。
「じゃあいくぞ。」
サルサは僕の首筋に歯を立て、ミシミシと皮膚を突き破る感触が伝わってくる。
「うっ……!」
痛い……少し涙が滲む。既に鈍化した痛覚も彼女の隣ではしっかり働きを見せる。だがこの涙は決して痛みに耐える涙ではない。サルサは僕の首筋から口を離すと、そこに優しくキスをする。
「次はシオの番。」
僕も彼女の首筋に歯を立てる。
サルサは僕の身体を綺麗と言ってくれたがそれは僕にとっても同じだ。彼女の身体も引き締まりながらも女性的な魅力に溢れた綺麗な身体だ。
僕の歯は獣人のそれと違いそこまで犬歯が尖っていない。故に肌を突き破るにはそれ相応の力がいる。僕が少し苦戦していると
「ゆっくり、ゆっくりでいいんだ。そのまま…」
サルサは僕の頭を優しく撫でながら言う。その優しい声に僕は少し安心し、そしてゆっくりと歯を沈めていく。するとサルサの口から吐息が漏れる。
「ん……っ……シオ……」
「大丈夫?痛くない?」
「あぁ、大丈夫だ。」
僕はそのまま歯を食い込ませる。すると彼女の口から甘い声が漏れ始める。それは痛みに耐える声ではなく、快楽に身を委ねる声だった。
僕はそれに気付きながらも行為を続けることにした。
やがて彼女の肌に小さな傷が付くと彼女は小さく震えた。そして僕の頭を抱き寄せると耳元で囁く。
「これで正真正銘シオはアタシのものだ。」
「ねぇサルサ?最後に一ついい?」
「なんだ?」
「僕はね………違う世界から来たんだ。」
「何だ、そんなことか。」
彼女の反応に僕は唖然とする。もう少し戸惑いを見せるものだと思ってた。
「どこから来たってシオはシオだろ?」
「フフっ、それはそうだね。」
「だろ?大事なのは今なんだ。それ以外は……案外どうだっていいもんなんだよ。」
彼女は僕の頭を抱き寄せる。そして優しく撫でてくれる。その感触は心地よくて思わず眠たくなってしまうほどだった。
だが二人の甘い時間は昼を知らせる街の鐘で吹き飛んだ。
僕たちは目を見つめ合い
「起きるか。」
「そうだね。」
ベッドを見ると二人の愛し合った跡の他に証の血痕が付いていた。
「これは宿の人に掃除お願いしないとね……シーツの交換も…」
「アタシがやっておくよ。」
そうサルサは言うけれど、僕は首を振って答える。
「一緒に行く。」
と手を引いて二人でシーツを剥がして部屋を出る。
宿の洗濯のサービスを頼み、同時にやんわりと部屋の状況を伝える。
すると宿のおばちゃんは若い男女が早く起きてこない場合、そうなることを予想していたらしい。
「大丈夫よ!うちのチビ達に若い男女が泊まってる部屋は掃除させないようにしてるからさ!」
とピースサイン。
「でぇ?何回ヤッたんだい?」
とおばちゃんはニヤニヤと聞いてくる。僕がはぐらかそうとした瞬間サルサは元気に
「3!」
と元気に答えた。
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